■1 労基法は「労働時間」に対して賃金を払いなさいと言っている
当然なのですが、労働時間ではない時間、例えば休憩時間について賃金支払いは不要です。
労基法上問題(特に未払い残業代請求)となってくるのは、ある労働者の行為が「労働時間か否か」という点です(業界用語で労働時間性と呼びます)。
効率的か否かは別として、会社の定めた所定労働時間に働いている間は労働時間です。
営業職で、営業車で寝ていて、車内のドライブレコーダーなどでその証拠が残っており、労働時間ではないという主張を会社がするようなレアケースは除きますが。
■2 労働時間か否かをできるだけ明確に区別して管理するのがベター
そんなこと言われなくてもわかっているよ、とのお気持ちは非常によくわかっておりますが、労働時間に対して賃金支払い義務が法的にあるかぎり、ここを無視はできません。
だらだら残業を無くすという観点も勿論大切ですが、限られた時間で生産性の高い仕事をいかにしてもらうか、そしてそれができている従業員とそうでない従業員をいかに評価していくか、という観点も非常に大事だと思っています。
(人事評価の領域は専門外ですので、その点には触れません。)
■3 ではどのように労働時間か否かを区別するのか
厚生労働省が労働時間管理に関するガイドラインを出していますが、そのガイドラインの有無にかかわらず、私は以下の方法がほぼベストに近いと考えています。
ポイントは、極力盲点をなくす「4つの手段を組み合わせた方法」です。
(1) タイムカードやPCのログなどの客観的データ
(2) 休憩を適切にとっているか、労働時間ではないロスタイムは無いかの把握
(3) 使用者からの残業命令(口頭でも当然良いですが、書面やメールなど記録に残ればベスト)
(4) 労働者の判断による残業申請に対する会社からの許可(絶対に書面等で記録化)
■4 タイムカードやPCのログなどの客観的データ
PCのログやデジタコのデータなどは、始業終業時刻をタイムカードよりは把握しやすいと思いますが、万能ではありません。
よくご質問がありますのは、会社に不利な証拠になるのでタイムカードなどは一切ない方が良いのではないか?という点ですが、私の考えは逆です。
万が一、残業代請求の裁判になった場合、「労働時間の把握をしようともしていない会社」との悪い心証を裁判官にもたれてしまい、劣勢に立たされると考えています。
ですので、まずは、タイムカード等により記録化し、出勤したか、遅刻はないか、早退はないか、など勤怠記録として残すべきと考えています。
客観的記録が何もない状態で裁判になると、労働者側が提出してくる手帳やカレンダーのメモ(古いので昭和な人)、スマホのデータ(世の中に氾濫している残業代請求アプリや帰るメール・ライン:世代問わず)に対して、会社側は労働時間ではないと反論できず、裁判官の会社に対する心証も悪く、結果、会社の敗訴となる可能性は極めて高いと思います。
■5 休憩を適切にとっているか、労働時間ではないロスタイムは無いかの把握
これを実施するのはとても難しいですが、例えば、業務日報(個人的にはA4縦1枚・分単位で24時間記入可のもの)を毎日書いてもらい、上長がその内容を1次チェックし、部長が最終チェックし、賃金支払い部門に日報がまわってくるという仕組みが、面倒ですが、良いと思います。
ただ、このような体制づくりができない場合もありますので、企業ごとにできる範囲内で精度を高めていただくというのが現実的かとは思います。
ともあれ、業務日報を書いてもらうと、いい加減な人とちゃんとしている人との見わけはつけやすいため、労働時間管理以外の効果も沢山でてきます。
※「平均的な労働者なら●分でできる●業務を、何分でできたのか」というのを、出勤から退勤までの間、細かく書いてもらうと、さぼっている人はざっくりとしか書けないため苦しくなってきます。
※さぼりの抑止力には、上長の現認などが考えられます。
■6 使用者からの残業命令(口頭でも当然良いですが、書面やメールなど記録に残ればベスト)
この点について特段コメントはありませんが、36協定に残業命令権があるのではなく、就業規則の規定に残業命令権の根拠が必要です。
36協定はあくまで、1日8時間、週40時間の法定外労働をさせても労基法違反とはしませんよ、という免罰的効果がメインです。
一方、就業規則は労使間の労働条件等を明記したものであり、ここに「残業や休日労働を命じることがある」という旨の規定は、必ず必要(命令権の根拠)です。
■7 労働者の判断による残業申請に対する会社からの許可(絶対に書面等で記録化)
最後の詰めとして、使用者では判断しづらい残業等もあるでしょうから、そのような場合には、従業員側から残業申請を出してもらい、会社が内容を確認のうえ許可し、その後を上長や部長が日報で確認する、というのがあれば、かなりの確率で、ロスタイムのあぶり出しができ、結果、まじめで有能な社員を評価しやすくなり、また要らぬ未払い残業代請求事案を未然に防ぐことができると考えています。
■8 会社の注意点
怪しい残業、勝手な早出、だらだら残業などを絶対放置しないことです。
以前のメルマガで触れましたが、上記のような事案が発生した場合、会社としては社内から従業員を追い出すぐらいしないと、裁判では労働時間と認定されるリスクが高まっていきます。
「放置→黙認→黙示の残業命令」という理屈です。
ですので、放置は絶対にいけません。
事案を発見した場合、即刻対応すべきことに十分ご注意ください。
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