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自社での降格と降職の違いは区別すべき

■1 降格は学説・裁判例・弁護士の見解により様々

1-1学説

労働法の権威で学者の菅野和夫先生の「労働法(第十版)」510項(弘文堂)」で、

降格には

・役職や職位を引き下げる降格(昇進の反対)を指す場合

・職能資格制度における等級を引き下げる降格(昇格の反対)を指す場合

があり、

また、

・人事権の行使として行われる降格

・懲戒処分として行われる降格

があるとされています。


1-2裁判例

使用者の行った降格は2つの法的意味のある行為であり、法的性質が異なるものであるから、区別して論じる必要があるとした学校法人の事件があります。


1-3弁護士の見解

こちらは、様々で、「上記の考え方を持つ先生」、「降格は格付け(職能資格制度での格付けや役割等級などのグレード)を引き下げる意味で、降職は役職を引き下げる(下位の役職を解く場合を含む)意味と考える先生」などです。


1-4冨島の見解

私は、「降格は格付け(職能資格制度での格付けや役割等級などのグレード)を引き下げる意味で、降職は役職を引き下げる(下位の役職を解く場合を含む)意味」と整理しています。


■2 一方、降職は?

こちらは、上記の違いで触れた内容以外に、特段、書籍などで詳しく論じたものを見た経験がありません。

この記事を書くのにあたり、今一度、手持ちの文献等を調べましたが、最初に書きました労働法の権威の菅野先生の解釈が、一番正しいのかと思います。


ただし、実務で使い分けるのはかなり困難(職能資格制度や役割等級制度がある企業の場合特に)ですので、私は、前述のとおり、降職を「役職を引き下げる(下位の役職を解く場合を含む)意味」としています。

ちなみに、私の顧問弁護士は、降格と降職を明確に区別すべき論者です。

ですので、私も同じ立場をとっております。


■3 降格のご留意点

降職という言葉で揉めることは想定しにくいですが、降格という言葉は、揉める可能性を秘めています。

具体的には、法的に降格が認められるハードルは、かなり高いということです。

ジョブ型がまだまだ浸透していない日本において、一度取得した資格(格付け)は無くならない(落ちない)という独特の考え方が、法律の世界ではあります。

ですので、格付け(等級も)を下げるのは、高度な合理性が無いと下げられないという点には要注意です。

では、どこまでやれば、高度な合理性があるのかと聞かれますと、これも特に線引きできるものではなく、事案ごとの司法判断となってくる、としかお伝えのしようがありません。

しかし、最低限で申し上げますと、職能資格制度や役割等級制度等における非常に細かな区分があり、その区分ごとの職務や能力が客観的に列挙されており、それらが労働契約として成立して、かつ会社の運用も実態を伴っている、というのは、最低限だと思います。


一言で申しますと、結構大変です。


■4 特に職能資格制度や役割等級がある会社では使い分けは必須かと

降格なのか降職なのか、後述します人事権の行使なのか懲戒権の行使なのか、複雑に絡み合います。

そして、場面ごとの法的意味合いが全く異なってきます。

職能資格制度や役割等級が無い場合でも、基本給の決定、昇給減給、賞与査定などなど、降格と降職とがなんとなくごちゃ混ぜになるかと思いますので、やはり区別していただいた方がわかりやすいと思います。


■5 降職をきちんと使い分け

以下、職能資格制度や役割等級が無い場合を想定して、述べてまいります。

※ある場合でも、同じような論点整理が必要です。


5-1人事権行使として降職

役職を命じたり、役職を下げたり、解任したりというのは、就業規則に書いてあることが、ごく一般的です。

これは、会社の人事権の行使としての問題であり、その権利行使が濫用になっていなければ、特に問題になりません。


5-2懲戒権行使としての降職

私の就業規則のひな型も開業当初は「降職・降格----始末書をとり、さらに職制による身分の格下げを行う」という規定を設け、降職降格を併記し、かつ就業規則の中で、懲戒権行使と人事権行使での役職の引き下げを可能にしていました。

しかし、何年か前から、懲戒の区分から、「降職自体を削除(降格も当然)」してしまいました。

この論点は、以前取り上げた記憶があるのですが、今一度申し上げと、労働者Xがある非違行為をし、それに対して、会社は役職を引き下げ、かつ出勤停止の懲戒処分にしたとします。

すると、この事案での役職の引き下げは、人事権の行使なのか、懲戒権の行使なのか、という疑問がわいてきます。


5-3労働側の弁護士ならすぐに気が付く点

つまり、上記の場合、1事案に対する2重処罰(2回の懲戒)ではないか?と会社は言われてしまうわけです。

そうではないという反論をしなければなりませんが、このような主張をされないようにしておいた方が会社にとってメリットが大きいと思いますので、それならば、懲戒区分から「降職」を削除してしまった方が良いわけです。


5-4人事権行使の降職をし、懲戒権行使の出勤停止は問題ない

人事権と懲戒権のそれぞれに権利濫用が無ければ、問題ありません。

ですので、やはり、人事権行使の降職を懲戒とは別に行うことがあるという選択肢を作るために、懲戒区分から「降職」をあえて削除しておいた方が良いわけです。

※懲戒としての降職だけよりも、「人事権行使の降職+出勤停止」の方がよほど効果があるかと思います。


■6 降格・降職を併用するメリットは?

職能資格制度や役割等級が無い場合には、個人的には、思い浮かびません。

ですので、降格という言葉は、同制度等が無い場合には、不要かと思います。

しかし、そういう私も思わず、それは降格ですね、と言ってしまうことがありますが…。


同制度等がある場合には、使いわけをきちんとされることをおすすめいたします。

特に懲戒では、降職も降格も、絡んできますので。


同制度等が無い場合には、繰り返しになりますが、懲戒から降職・降格は削除された方が会社にとって有利かと思います。


■7 今回のお話は普通の社員には全く関係がない

そうなのです。

関係ないのです。

降職も、降格も、何もする必要がなければ、就業規則がどうなっていようと、関係がないのです。

問題を起こす、能力不足、勤怠不良等が無ければ、全く関係のないお話です。

しかし、残念ながら、関係のある方がいるのが現実ですので、会社としてはブラッシュアップしていただき、降職、降格の区別などをしていただきたいと思っております。

皆様ご存じのとおりですが、マイナスの人事権行使や懲戒権行使をする必要がある人からしか、会社は訴えられたり労組に駆け込まれたりしないのが一般的ですから。

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