■1 はじめに
略して高年法という法律がありまして、正社員などの無期契約の場合には、使用者に65歳までの雇用確保措置を講じる義務を設けております。
「雇用確保義務」ではなく「雇用確保措置義務」でして、雇用確保の措置(定年後再雇用など)を講じれば良いというのが、法律の解釈です。
そして、提示する労働条件が高年法の趣旨を踏まえたものであれば、従業員の希望どおりの労働条件で雇用する義務もありません。
ただし、定年後再雇用後の雇止め(途中で契約更新しない)というのは、実務的にかなり難しいというのが通説ですので、定年後の最初の契約(再雇用契約でも、あくまで新規の契約)締結時が大切になってきます。
■2 テーマの結論から先に
定年前の労働条件と比較して、合理的な範囲であれば、会社が定年後再雇用者に対して提示する労働条件(月例賃金・賞与含む、以下、同じ)は、会社の裁量で決めても良いです。
★合理的な範囲ということを、会社が説明と立証ができるようにしておくことが重要です。
今回のテーマの論点は、いわゆる同一労働同一賃金も絡み合い、様々な裁判例が出ていますが、今後の経済社会情勢等により裁判例が変化する可能性を否定はできませんので、その点は今後も注視していく必要はあるかなと考えております。
しかし、現時点では、上記前提条件をクリアできていれば、問題になる可能性は低い(仮に裁判になっても会社勝利の可能性が高い)と言えます。
■2 合理的な範囲で、わかりやすい例は?
一番わかりやすいのは、シンプル過ぎますが、所定労働時間や所定労働日(両方共も、ありかと)を定年前よりも減らすやり方です。
あまり減らし過ぎる(4割超?)と問題になることが想定できますが、たとえば、本人の体調等を踏まえつつ、会社業務の調整をした結果、3割減の業務量の所定労働(仕事内容は定年前に似ていても責任は軽減)とし、定年前の労働条件の3割減を会社が決定し、定年後再雇用者となる方に提示する、というのであれば「合理的な範囲」だと考えます。
★業務量減少の理由に合理性があり、その減少幅が3割減ほどであれば、個人的にはアウトゾーンには入らないのではと考えております。
「●割なら大丈夫orアウト」という線引きができない(明確な裁判例がない)ため、私の感覚的なものになってはしまいますが、その点はご容赦ください。
■3 有名な裁判例をもとにしたNG例
定年前はホワイトカラーで世の中の平均よりも高給だった人を、定年後再雇用では、シュレッダー係などの単純業務しかさせず、かつ賃金も激減させた例がありますが、裁判では大手自動車メーカーが負けました。
(定年前のキャリアと定年後再雇用の業務内容がかけ離れ過ぎており、従業員が承諾できないような労働条件を提示)
上記の例はわかりやす過ぎるパターンですが、一番揉めやすいのは、定年前と定年後再雇用時との業務内容と責任の程度が全く同じなのにもかかわらず、定年後再雇用者という点のみで、賃金を低く設定するパターンです。
(これは、いわゆる同一労働同一賃金の観点で問題に)
■4 アウトゾーンに入らない合理的な範囲とは?
私の考えは、シンプルに「労働条件の減少について、合理的な説明と立証を、会社が本人や第三者にできる内容」であれば、まずは良いと考えております。
定年の半年前くらいには、ご本人に定年後の再雇用を希望するか否かを聴取し、希望するのであれば、ご本人の体調面や業務遂行能力等を踏まえ、どのような業務を担ってもらうか1か月ほどで検討し、早め早めに労働条件の提示(減少幅が大きければ大きいほど早く)をしながら、よく話し合っていただく、このような流れがベターだと思います。
ご本人だけでなく、労働組合などに関与されたとしても合理的な説明と立証ができるよう社内で検討していただいていれば、大きな問題になることはないと思います。
そして、「会社の合理的な説明と立証+ご本人との話し合い+ご本人の納得」があれば、答えは、揉めることが想定しづらい合理的な範囲の労働条件、と言えると思います。
■5 高年法に関係のない、ありがちなお話
労働条件について、ご本人が納得しなければならないという誤解です。
ご本人の納得があった方が断然良いのですが、会社の提示した労働条件に納得せず合意しなくても、高年法の趣旨を踏まえた「使用者の合理的な裁量の範囲の労働条件」を提示していれば、合意不成立で再雇用自体に至らなくても高年法違反にはなりません。
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