私の記憶ではTV番組の情報だったかと思いますが、日本人は単語を4文字に短縮するのが好きなようです。
このようなことを指す用語もあるようですが、記憶に残っておらず…。
労務の分野でも同じことが言え、例えば「セクシャルハラスメント → セクハラ」というように、様々な言葉が4文字に短縮され使用されています。
この4文字短縮の言葉の中で、2年ほど前から労務の分野で聞くようになった言葉として「ハラハラ」があります。
「ハラスメントハラスメント」という造語のことを指し、4文字に短縮したものです。
この「ハラハラ」とはどのような意味なのか、また「ハラハラ」をしてくる人に会社はどうのように対応すればよいのかという点を述べていきたいと思います。
題して「ハラハラ社員とその対応方法」です。
■1 ハラハラ(ハラスメントハラスメント)とは?
職場の3大ハラスメントに、セクハラ・パワハラ・育児介護関係のハラスメントがあります。
この3大ハラスメントに関して、「事業主への相談等を理由とした不利益取扱いの禁止」が、該当する各法律に定められています。
令和2年6月1日に、いわゆるパワハラ防止法と一緒に、静かに施行されました。
この点について、下記のURLがまとまっており、わかりやすいです。
【不利益取り扱いの禁止 】東京労働局セミナー資料の17ページ
会社の不利益取り扱いを禁止していること(ハラスメント相談しても不利益なし)を逆手にとって、なんでもかんでも「●●ハラだ」と会社に相談をし、法律の本来の趣旨とは違う、「気に入らない上司を異動させる」「自分の嫌いな部署から異動する」「適切な注意指導等に対抗する」などという手段に悪用する人がいます。
<いずれも従業員本人の主観+言いがかりが前提>
例①:「●部長からパワハラをされメンタル不調となった。この部長とは一緒に仕事ができないから部長(または自分)を異動させて欲しい」と主張する。
例②:従業員本人の問題言動に対して上司が適切な注意指導をしたにもかかわらず、「上司の言動はパワハラだ」と主張する。
上記のような言動をし、周囲を困らせることを「ハラハラ(ハラスメントハラスメント)」と呼んでいます。
■2 パワハラをもとに、ハラハラを解説
3大ハラスメントの中でも、パワハラが一番、ハラハラになりやすいと思いますので、ここではパワハラをもとに述べていきます。
■3 ハラハラ社員の類型Ⅰ パワハラを悪用するタイプ
上記■1で述べたものが多いパターンです。
とりあえずパワハラだと主張すれば自分の思い通りになる、上司の注意指導も甘くなる、と誤解しているタイプです。
そして、「このままパワハラ上司のもとで私を働かせて、メンタル不調になったら会社は責任取ってくれるんですか?これって労災になりますよね?会社には安全配慮義務がありますよね?」と言ってきたりします。
これに対しては「会社として適切に調査した結果、パワハラを認定できなかった。しかし、その上司には改めてパワハラについての問題意識を持ってもらった。貴殿の言う可能性の話をしていたら何もできないので、会社として今できる対応をしたうえで、貴殿に就労していただくことを求める」というような旨をハラハラ社員に伝え、毅然と対応すべきです。
■4 ハラハラ社員の類型Ⅱ ハラハラ社員との自覚がないタイプ
自身が能力不足や問題社員であるとの自覚がなく(不足し)、会社や上司の注意指導を受け入れないタイプです。
業務上の注意指導をパワハラと誤解し、さらに自分の相談に対して会社が適切な対応をしなかったと不満を言ってくることが多いです。
また、何度も同じことを相談してきたり、相談後の注意指導や配置転換をパワハラ相談したことに対する報復だと言ってきたりするなど、何をしてもすべて会社の対応の問題だと言ってきます。
■5 上記の2つの類型に対しては、文書で証拠化が基本
いずれのパターンも上記の主張をしてくる段階から完全に労務問題モードですので、面倒だとは思いますが、ハラハラ社員が相談してきた内容とそれに対する会社の対応、そして本人へのフィードバックの際の会話内容を、5W1Hを明確にして、臨場感が伝わるほど具体的(相談時の言葉をそのまま+会社対応の詳細+フィードバック時の会話内容もそのまま)に文書で記録に残してください。
これがないと、外部の労組や弁護士が関与してきた場合、会社として適切に対応したと反論する「客観的で説得的な証拠」がかなり不足している、ということになってしまいますので。
面談者は2名(1名は主に書記係)が良いです。
3名は多い印象です(それ自体をパワハラだと言ってくる可能性があります)。
なお、日常的な注意指導においても、上記と同じような文書化は、残念ながら避けて通れないです。
■6 明らかにパワハラでないケースの会社対応
パワハラ防止法は、会社に対して、防止のための措置義務を講じるよう求めています。
ですので、最終的にパワハラではなかった事案でも、予防的観点でみますと、相談への適切な会社対応が求められてしまいます。
個人的には、この点と以下で述べる不利益取り扱いの禁止が、ハラハラ社員を生み出す原因になっていると思いますが、性善説で考えないと「本当のパワハラ」を見落としてしまいますので、やむを得ないと思っております。
→その分、ハラハラ社員のペースにならないようすべき、と考えております。
このケースの設例ですが、「きちんと仕事をしなさい」と上司が部下に注意したことに対して、「上司からきちんと仕事をしろと叱責された、これってパワハラですよね?」と言ってくるケースです。
「そんなこと言う人いるの?」「そんなの明らかにパワハラではない」と思われると思いますが、もっと凄いパワハラ主張が実際ありました。
※あまりに凄すぎてご紹介できないほどの内容です。
このケースで、会社として門前払いは避けていただき、変な主張であっても、まずは話を聞いていただき「確認のうえ対応する」という回答をしていただきたいと思います。
面倒ですが、確認後のフィードバックもしていただかざるを得ません。
■7 厳しい指導に対するパワハラ主張への会社対応
これはかなり多いケースで、それなりに悩ましいです。
パワハラの法的な位置づけは、
① 優越的な関係を背景とした言動であって
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
③ その雇用する労働者の就業環境が害されること
を満たし、かつ、就業環境が害されたかどうかは
・平均的な労働者の感じ方を基準
とします。
つまり、解釈の幅がかなり広いとも言えます。
数字でもなく限定的な言葉でもないため、該当する可能性を考えたらキリがありません。
例えば、問題社員に対して、温厚な上司が思わず「いい加減にしろよ、馬鹿が!」と、いつもより大きな声で1回だけ言ってしまった(上司も自認)とします。
このケースがすぐさまパワハラに該当するかと考えますと答えを出すのは簡単ではなく、上記の法的解釈基準をもとに、その上司の過去の事実関係、本件の事実関係、その場に他の社員がいたかなど、確認すべき点が多々あります。
パワハラか否か、事案を点でとらえるのではなく、時間軸を含めた点と点を結んで線でとらえ、さらに面にし、最終的に立体で事案をとらえるというのが良いと考えています。
ただ、基本的に「いい加減にしろよ、馬鹿が!」という言葉はパワハラ的な言動ですから、上司は部下(問題社員でも)に対して、その発言についてはすぐに謝罪した方が良いです。
また、いろんな価値観や考え方を持った人が多い時代になっておりますので、基本的に人が嫌がる言葉づかいは、禁句とすべきです。
→ゆとり世代の弁護士は、親から「馬鹿」と一度も言われたことなく育てられ、世の中でその言葉を使う人に対して、危険人物と認識するようです(本人談和)。
そのうえで、上司が上記のようなパワハラ的発言をしてしまった理由が背景にはあるはずですから、その背景を会社としていつでも確認できパワハラか否かの判断材料とできるように、問題社員と上司との普段のやり取り(注意指導など)を都度書面化(証拠化)するよう上司に指示していただくのが良いと思います。
この面倒な作業は、今回のテーマ以外でも必須であり、その地味な努力が後々の問題社員との向き合い方で、会社が劣勢に立たずに済む可能性を高める基本的な要素だと、いつも思っています。
※くどくて恐縮ですが、書面などの物的証拠がないと、点を「線→面→立体」で反論すること(第三者にも理解させること)が困難になりますので。
■8 これまでの業務を変更(過少に変更)させられたとのパワハラ主張への会社対応
これについては、本人の日常的な問題点を指導し、その指導内容を事細かに書面で証拠化し、都度本人にも指導書というようなタイトルで書面交付をし、そのうえで、このような主張をしてきたなら「これまで積み上げてきた書面の証拠」を本人面談で目の前に並べて、説明していただければ、会社対応としては良いと思います。
「貴殿の●業務遂行について、●回にわたり●●という内容の指導と改善機会を、貴殿にもお渡ししたこの書面のとおり会社は実施してきたが、残念ながら貴殿の改善は見られず、このまま●業務をしていただくにも適正を欠いていると判断せざるを得ず、そのためこの度▲業務に従事していただくことにした」という旨を丁寧にご説明ください。
→このパターンは以下にも共通しますし、問題社員への退職勧奨の際には必須になってくるご対応方法です。
会社全体の職場秩序維持のため、問題社員の放置は厳禁ですし、また、不当なパワハラ主張に屈することも会社としては避けなければなりません。
■9 配置転換に関するパワハラ主張への会社対応
①会社全体の定期的な配置転換であればその旨をご説明、また、②業務への適正欠如による配置転換であれば上記■8のようなご説明、そしてありがちな③「不当な動機・目的だ(嫌がらせだ等)!」との主張の場合、「いやいや、正当な配置転換ですよ」とのご説明(①②の片方または両方)をなさってください。
■10 ご説明内容は書面交付+本人に口頭の両方
上記■8,9ともに、「具体的な説明を受けていない」などという言いがかりを防ぐために、これまた面倒なのですが、「説明内容を書面交付+本人に口頭でも説明」がベターだと思います。
「冨島は書きたい放題書いているけど、実際会社の現場でやるのは大変なんだよ」というお気持ちもあろうかと存じますが、皆様の社内において、問題社員(ハラハラ社員も)はごく少数だと思います。
ですので、実際に証拠化しなければならないケースは、頻繁ではないはずです。
→いざ目の前で問題社員やハラハラ社員の兆しがあってもご対応していただけるように、折あるごとにこのブログで「書面での証拠化は必須の旨」を申し上げております。
ちなみに、よくあるのが「なぜ私にだけ他の人とは別に手書きの業務日報を書かせるんだ!これはパワハラじゃないのか!」(要は狙い撃ち)と主張される場面がありましたら、「他の方は通常業務を問題なくやっていますが、貴殿の場合には問題点があります。そのため、貴殿の業務遂行を見える化し、そのうえで会社の教育指導をより適切にしていくため、このような業務日報を貴殿に書いてもらうのです」と毅然とお伝えください。
狙い撃ちの個人攻撃では決してありません。
■11 事業主への相談等を理由とした不利益取扱いの禁止
<いわゆるパワハラ防止法の原文のまま抜粋>
事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
会社にとって、この条文で一番大事なのは、「理由として」という文言です。
パワハラ相談を理由としない、懲戒処分や配置転換などは禁止されていないということです。
■12 「理由として」いないことを会社が立証できるようにすべき
ハラハラ社員からのパワハラ相談の時期に近接して、懲戒処分や配置転換をする際は、パワハラ相談したことを理由としていないことを、書面で証明できるよう是非していただきたいです。
この証明について、前回号やこれまで折に触れて述べてきました「書面での証拠化」がなされていれば、そのハードルは高くないと思います。
もし、「書面での証拠化」ができていなければ、第三者(とくに外部労組)に絡まれた場合かなり面倒なお話になるかと思います。
相手側は、懲戒処分や配置転換の事実関係をもとに、「パワハラ相談をしたことによる報復だ」と簡単に言えてしまい、それに対して会社が物的証拠をもとに反論できなければ、結局労働者側の主張にそった解決案しか見いだせない可能性が高いかと思います。
■13 まとめ
問題社員を放置しない。
これは、会社の労務管理にとって、極めて重要です。
労務の世界では、前向きで心地よい話は多くはないですが、大多数の普通の社員さんは、ごく普通に働いていると思います。
その普通の世界に、一人でも普通でない人がいた場合、放置しておくと徐々に染まっていくと私は考えています。
染まらない人もいると思いますが、仕事のできる人は問題社員と一緒にいることに違和感を覚え転職を、そうでない普通の人は淡々と言われたことだけやる、どちらかというと仕事ができない部類の人は染まりやすい、労務問題の火種を持っている人は自ら発火する、このような気がしてなりません。
「大多数の普通の人以上の人達が働き甲斐のある会社」を維持していただくために、どうか問題社員の放置はもちろんのこと、今回取り上げたハラハラ社員(そもそも問題社員ですが)のペースになるようなことだけは回避なさってください。
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