今回はこの時期に最もご相談の多い「退職時の年次有給休暇のフル消化対応」について述べたいと思います。
このご相談は、会社や経営者の方にとって、かなり気分を害されたうえで私にいただくことが多く、お気持ちをお察ししつつ、しかし、退職トラブルで労組に駆け込まれても面倒ですので、ご理解をいただけるよう努めております。
■1 退職時の年次有給休暇のフル消化を拒否できるか?
残念ながら、実務上は、拒否できません。
年次有給休暇の取得時季は労働者の請求によるものであり、使用者はその時季を変更する権利を一応はもっています(法的に認められるのは従業員3人ほどの極めて小規模事業の場合)が、退職日以降の時季変更はできませんので、結果として、法律上拒否できないということになってしまいます。
■2 拒否できないのなら何か対抗策はないのか?
法的有効性が極めて低い方法をご紹介しても仕方がありませんので、実務で使える、3つの方法をご紹介します。
(1) 年次有給休暇の買い上げ
消滅する年次有給休暇の買い上げは違法ではありませんので、十分な引継ぎなどをやってもらわないと困るケースであれば、検討する価値ありです。
金額は特に決まっておらず、通常の賃金とするか違う額にするか、買い上げの必要性と、労働者が受け入れるかどうかによって額を検討することになるかと思います。
(2) 休日出勤命令
就業規則に命令根拠が必要ですが、どのひな形でも休日出勤命令はどこかに書かれているかと思います。
年次有給休暇は、「所定労働日」にしか取得できません。
なぜならば、「休暇」とは「労働義務のある日に、労働を免除すること」だからです。
よって、会社の所定休日には年次有給休暇を取得できません。
そこで、所定休日に出勤命令を出して、引継ぎ等をさせることは、理屈上は可能です。
ただ、皆さまお感じのとおり、引継ぎをしようともしない人が、退職間際の休日出勤命令を素直に受け入れるかと言えば、よほど常識的な方か気弱な方ぐらいにしか通用せず、その他の人には、ほぼ効果は無いと思います。
そもそも上記の休日出勤命令を受け入れるような方は、いきなり「退職届+年次有給休暇フル消化」はしないと思います。
休日出勤命令は、理屈的にはある、という程度です。
休日出勤命令を拒否したからといって懲戒解雇にもできませんし、退職金の減額も裁判では負ける可能性が極めて高いでしょうから、一応ご紹介まで、という感じです。
(3) 退職までの年次有給休暇フル消化中の通勤手当を不支給
これが、会社としてできる対抗策の一番多いケースと言えます。
このような場合の通勤手当不支給については、賃金規程に明記しておくべきです。
私の賃金規程のひな形では、「退職について承諾を得た社員、または辞職を申し出た社員が年次有給休暇を取得した場合、その日についての通勤手当は支給しない。」との規定を設けています。
わずかであり、唯一と言っていいと思いますが、会社が最後にできる一手です。
本当に、わずかですが…。
■3 年次有給休暇フル消化から見える根本的対策
年次有給休暇フル消化自体は、労働者の強い権利であって、実質拒否することができません。
最大で40日間ですから、約2か月近く出勤しなくても、通常の賃金は発生するわけです。
年次有給休暇を取得させる法改正がなされ、これまでよりは、退職間際の年次有給休暇フル消化日数が減少傾向ですが、それでも20日間ぐらいは、普通に残っています。
ですので、引き継ぎをしないと会社業務に多大な影響がでるような「特定の人にしかできない業務」を減らしていった方が良いと思います。
つまり、突然の「退職届+年次有給休暇フル消化」でも、他の人でカバーできるような体制が大事だと思います。
退職だけではなく、大規模災害や昨今のコロナのような大規模感染時での「会社のBCP」の観点からも、「特定の人にしかできない、わからない業務」は減らしていった方が良いと思います。
これが、年次有給休暇フル消化への一番の根本的対策だと思います。
Comments