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令和4年版 会社が退職勧奨の際に留意すべき主なポイント

更新日:2022年1月28日

例年なのですが、3月と12月は、退職勧奨のご相談が多くなる時期です。

年度末や年内に、会社も従業員もお互いに「キリの良いところですっきりしようよ」という感じだからだと思います。

ですので、履歴書を見る際に、何月何日に退職しているのかも、見るポイントです。

3月や12月(有休消化で後ろ倒しの場合もあり)で退職しているのなら、辞めた会社が退職勧奨している可能性があります。

退職勧奨されていたとなれば、それなりの理由があるでしょうから、そのような退職時期の履歴書については、突っ込んで質問してみる価値はあるかと思います。

※面接での質問の際に、「お答えしたくなければ、その旨仰っていただいて構いません」と黙秘権のようなものを与えると安全性が高まります。


前置きが長くなりましたが、上記のとおりですので、今回は「令和4年版 会社が退職勧奨の際に留意すべき主なポイント」と題して述べたいと思います。

解雇での紛争リスクを避けるため、退職勧奨の場面はかなり重要ですので、最新の私の考えを、これまでのメルマガに少し角度(多少重複しています)をつけて述べたいと思います。

毎月のように退職勧奨する会社は通常なく、慣れていない場合が多いかと思いますので、いざという時に備えて、今一度ご確認ください。


■1 退職勧奨の確認

解雇(会社からの一方的な雇用契約解消)ではなく、話し合いによる会社都合の合意退職になります。

退職を勧める話し合いであり、一方的に雇用契約解消を言い渡す解雇とは、法的に全く意味が違います。

※退職勧奨 → 話し合いによる円満な会社都合の合意退職


■2 事前準備が大事

経営者の方のお気持ちは痛いほどわかりますが、感情が最高潮になり→その場で→いきなり→退職勧奨は、かなりの確率で失敗します。

反対に、「解雇された」との主張をされる可能性があり、かえって反撃を受けます。

ですので、まずは、退職勧奨をせざるを得ない場面までの過去の指導記録等を取り揃えて、話し合い当日までに資料の準備をしてください。

相手も、何も示されずいきなり退職勧奨されるのと、話があるから来るように言われ、かつ、これまでと直近の自身の言動が文字になっている資料を見せられながら退職勧奨を受けるのとでは、受け止め方が全然違うはずです。


■3 違法な退職勧奨と言われないようにする

例えば、退職勧奨に応じないと宣言している相手を無視して退職勧奨を続ける、長時間行う、ある個室で鍵をかけて行う、毎日行う、怒鳴りながら行う、その場を立ち去ろうとしている相手の腕をつかんで部屋から物理的に出れないようにするなどは、違法な退職勧奨だと言われるリスク(セクハラ・パワハラ等のリスクもあり)は極めて高いですから、避けるべきです。


■4 録音は必須で、1対1では行わない

退職勧奨の際の録音は秘密録音ではなく、会社から「この面談内容を録音しますから」と言ったうえで録音すべきと、今の私は考えています。

拒否されたとしても、面談の内容を正しく記録する意味などもあるので録音する旨を伝え、相手が望めば相手にも録音を認めてよいと考えています。

録音することで、言った言わない、解雇の話はしていない、などを明確にできますし、双方がある種の緊張感をもって、感情的にならずに話をすすめやすくなると思います。


では、録音があれば、1対1でも良いのでしょうか?

私は、会社側は2人(話し手と書記係)か3人(話し手と書記係と上長など)が良いと思っています(4人は多すぎます)。

録音してるのになぜ書記係が?と疑問を持たれるかもしれませんが、刑事ドラマの取り調べをイメージしてください。

必ず書記係がいます。

そして、被疑者の態度に熱血刑事が怒って手を出そうとすると、書記係が止めに入ります。

それと同じように、何かあったときに止めに入る役として、書記係はいた方が良いですし、録音だけでは事実が残せない態度など(立ち上がって顔から数センチの距離で睨みつけるなど)もありますので。


■5 諭旨解雇と退職勧奨の違いを認識して行う

諭旨解雇とは、わかりやすく端的に表現しますと、「退職届を出すのなら懲戒解雇とはしないよ」というもので、懲戒処分の一つであることに間違いはありません。

また、退職届を出さなければ懲戒解雇するのですから、懲戒解雇相当のハードルをクリアーしている事案に発動すべきもの、ということができます。


実務で退職勧奨する際、諭旨解雇(諭旨退職)と主張されないようお気を付けください。

どのように気を付けるかですが、「懲戒処分の手続きを取らず、退職勧奨に応じなければ普通解雇にする」ということです。

懲戒処分の手続きとは、ある事案に対して弁明の機会を付与し、そのうえで処分内容を決めるという手続きです。

※事案発生→弁明機会付与→諭旨解雇処分決定→もし退職届を出さなければ懲戒解雇


安全策は、解雇相当の事案でもラストチャンス(事案によっては、もう少し指導教育機会)を与え、それでもだめなら普通解雇で勝負という感じです。

普通解雇の方が、諭旨解雇で勝負するよりもハードルが低い分「マシ」ですが、不当解雇だとの主張リスクはついてまわる話にはなります。


■6 きちんと向き合って退職勧奨

従業員へ退職を勧めるというのは、採用よりも重たい話です。

ですので、会社としては、退職勧奨の際、相手にきちんと向きかって話し合いに臨むべきと考えております。

法律論より、感情論が大事です。

感情のもつれから法律論になり泥沼化していく、というのが労務問題の典型的パターンですので。

日本で一番強気だと私が思っている「労働法専門の会社側弁護士の先生」の書籍に、「会社が退職勧奨を行うときに最も大切なことは、相手に礼儀を尽くすこと(趣旨)」と書かれていたのを、開業当時に読んだ記憶がありますが、私は今もその一文を肝に銘じております。

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