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実は悩ましい、労働者性の判断基準

■1 契約上は業務委託契約だが?

雇用契約ではなく業務委託契約であっても、法的には労働者として扱う場合があります。

もし労働者として扱われた場合、残業代の支払いはもちろん、業務委託契約を終了したつもりでも、不当解雇だと主張されるトラブルに巻き込まれます。

この論点で問題になりやすい業界としては、運送関連業界(白ナンバーでも運転関係)、語学講師などです。


■2 労基法上の労働者か否かの判断根拠とは?

業界的には非常に有名な「労働基準法研究会報告・労働基準法の「労働者」の判断基準について(昭和60年12月19日)」といものがありまして、下記のURLがそれになります。

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000xgbw-att/2r9852000000xgi8.pdf

(引用:厚生労働省HP)

それなりにボリュームのある内容ですが、ある働き手との契約を業務委託へ変更しようと検討される場合は、必読の報告書になります。

※昭和のものですが、今でも実務で重視されている報告書になります。


■3 労働者性(労働者か否か)のポイント

次のような項目が、ポイントになってきます。

業務委託契約であるとの会社の主張を通すには、労働者性を否定する事情を増やし、逆に労働者性を肯定する事情を減らすということにつきます。

※以下、「○は労働者性否定の事情」「×は労働者性肯定の事情」

【使用従属性】 

(1)指揮命令下の労働であること

(ア)仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無

   ○仕事の拒否が可能

   ○出社日を自由に決定できる

   ×指示を拒否する自由がない

   ×会社の都合だけでシフト作成

(イ)業務遂行上の指揮監督の有無

   ○業務遂行方法について個別具体的な指示はない

   ○自分の判断で業務遂行の順番や方法などを決定

   ○教本は注意喚起や基礎知識の習得または確認等の趣旨にとどまる

   ○当然に必要な指示のみ、ゆるい指示にとどまる

   ×英会話講師の仕事において、レッスンにテキストの使用を義務付け

   ×通常予定されている業務以外の諸作業を義務付け

(ウ)拘束性の有無

   ○稼働日や稼働時間を自由に決定できる

   ×仕事の開始時間や待機場所について指示

(エ)代替性の有無(指揮監督関係を補強する要素)

   ○交代可能

   ×再委託が事実上困難

(2)報酬の労務対償性があること

   ○出来高払い、歩合給

   ○従業員の給与よりも相当高額  

   ×報酬額は時間数や日数に対応している

   ×決算報告書で給料手当として計上


【労働者性の判断を補強する要素】

(1)事業者性の有無

   ○機材は本人所有、経費は本人負担

   ×才覚による利得の余地が乏しい

(2)専属性の程度

   ○兼業可能、職務専念義務なし

   ×兼業が事実上困難

(3)その他

   ○源泉徴収なし

   ○社会保険なし、保険料控除なし

   ○事業所得として確定申告

   ×雇用されている労働者と峻別して取り扱っていない


■4 実務の現場でもよくある話と労組法関連の判例

運転業務の場合によくあるのは、労災事故が起きた時に、労働者かどうかが争点になります。

判断するのは労基署です。

昔よくあったお話は、「社会保険料負担が嫌なので(国保と国民年金にしたいので)、雇用契約ではなく、業務委託契約にして、あとは、そのままでお願いしたい」との労働者の申し出に対し、社長は「そうかわかった、そうしよう」と業務委託契約書を締結するも、仕事中のけがで労災対応しない会社を労基署に密告して、会社は労基署からこっぴどくやられる、というケースです。


労基法上の労働者性ではなく、労働組合法上の労働者性が争われた事案ですが、「個人事業主のオペラ歌手や建物設備メンテナンスの請負の個人事業主」を、労働組合法上の労働者であると、最高裁が認定した事案があります。

労基法上は労働者ではなくても、労組法上は「労働者」であるため、労働組合からの団体交

渉の申し入れに対して、会社は応諾義務があることになります。


■5 おわりに

表ざたにならなければ、問題は潜在化しませんが、何かあったときは、上記で述べたようなことが争われます。

いろんな意味で悩ましいのですが、労働法関連は、法律の目的自体が「主に労働者保護」にあるという事実を基に、会社としは様々なリスクヘッジをしなければいけませんし、問題発生時の対応をしなければなりません。

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