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令和5年6月以降は労働法の潮目が変わるかも?静かに議論中の解雇の金銭解決など

更新日:2023年7月18日

■1 年初の首相発言(1月4日、三重県伊勢市で記者会見)

「インフレ率を超える賃上げの実現をお願いしたい」
「企業収益が伸びても賃金が上がらなかった問題に終止符を打ち、賃金が毎年伸びる構造をつくる」
「この30年間、企業収益が伸びても期待されたほどに賃金は伸びず、想定されたトリクルダウンは起きなかった」
「リスキリング(学び直し)の支援や職務給の確立、成長分野への雇用の移動を三位一体で進め構造的な賃上げを実現する」
「本年6月までに労働移動円滑化のための指針を取りまとめ、働く人の立場に立って、三位一体の労働市場改革を加速」

■2 昨年秋に出された厚生労働省の調査資料

現在、厚労省の労働条件分科会で「解雇無効時の金銭救済制度」を、実は議論しています。

以前に何かのきっかけで議論が止まりましたが、静かに再開されています。

上記の「成長分野への雇用の移動」「労働移動円滑化」という首相発言は、この議論とリンクしていると思われます。


■3 資料の中身は?(私が入手した資料ベース)

都道府県労働局のあっせん申請件数、労働審判、労働事件訴訟の受付件数に触れつつ、労働審判と労働事件訴訟での解雇事案の解決金額を紹介しています。

リーマンショック以降、解雇紛争が増加傾向であること、解決金については、いずれも平均で「労働審判は約285万円、通常訴訟約613万円」となっております。

ちなみに、都道府県労働局のあっせんの解決金額は出ていませんでしたが、私が実際に見聞きしているのは「一桁ちがう」ほど、解決金額は低いです。

もし「あっせんの申立」がなされた場合、会社は、必ずと言ってよいほど、受けられた方がよいです。

本当に桁違いのことが多い印象です。


■4 今年6月以降、日本の労働法の潮目が変わるかも?

労働力人口は減る

若い人の取り合い(しかし、年功賃金のため初任給は抑えないと…)

でも高齢者も引き続き雇わないとやっていけない

年功的賃金体系ではいずれ限界が

かと言って簡単には賃下げできないし、人員整理等の雇用契約の解消も簡単ではない


この避けては通れない、日本の構造的な問題に対しての方向性が、上記■1の首相発言だと私は強く思っています。

ですので、今後、国は「雇用契約解消の際の金銭相場」を提示しつつ、「年功的賃金から、仕事の内容による職務給への移行」を推し進めると、私は思っています。

※しかし、上記のいずれも労働組合等の強い反発が予想され、日本的な曖昧なものになる可能性が高いように感じます。


■5 まずは大企業からかもしれません

これまでの国の労働政策をみた場合、解雇の金銭解決は、まず大企業から適用させるかもしれません。

しかし、職務給の方は、企業規模を問わず進める可能性があると感じています。

ですので、今年の6月以降は、お客さま(私も)の意識を変えていただかないといけなくなるかもしれません。

とはいえ、日本的な「曖昧で徐々に」という進め方になるようにも思いますが。

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