この時期と年末に結構多くなりますのが、従業員の退職がらみのお話です。
普通の人は、退職を申し出る際、「退職届や退職願」を提出するのが常識的対応ですが、中には、突然、「こんな会社やめてやる」と言って急に出社しなくなるケースもあります。
当然、このようなケースの場合には、「退職届や退職願」は提出されていないわけでして、会社としては対応に悩むかと思います。
そこで、今回は、「口頭で退職を申し出た従業員がその後も出社しない可能性の高いケース」について、具体的対応策を述べたいと思います。
タイトルは、「口頭での退職意向で会社がやるべき緊急対応」です。
■1 そもそも退職の意思表示方法に法的ルールはあるのか?
結論としては、当該方法に、法的ルールはありません。
したがって、口頭での退職の意思表示も、法的には有効です。
以前の私の就業規則ひな形は、「退職届」or「退職願」という文言を使って、退職時の会社のルールを定めていましたが、最近は、「退職の申し出」という文言を使用しています。
理由は、口頭だから正式な退職の意思表示ではない、という反論を封じるためです。
(私の想定は、問題社員を前提にしており、普通の常識的な方はきちんと書面を提出します)
書面でなくとも、口頭やメール等での「退職の申し出」を、会社としては退職の意思表示と認識している旨を規定しておいた方が、良いと考えています。
話しを戻しますが、では「口頭での退職の申し出」が問題社員からなされた場合、就業規則の規定も「退職の申し出」となっているので、その退職の意思表示は当然に有効になるかといいますと、そうなるとは限りません。
なぜなら、退職の申し出の撤回は法的に可能だからです。
これは、口頭に限らず、書面やメール等でも同じことが言えます。
ましてや、口頭であれば、いくらでも撤回や言い逃れができます。
■2 では、口頭での退職の申し出の場合、どうすれば良いのか?
一番安全策なのは、口頭で退職の意思表示をしたら、すぐさま「その場で本人に書いてもらう退職届」を会社が本人に提示し、その場で口頭で述べたことを文字に残してもらい、正式な「退職届」として会社が受理することです。
事前に会社が退職届のひな形を用意しておいたとしても、退職手続きを適切に行うためのものであり、かつ「退職日付、退職理由、本人名など」の重要な情報はあくまでご本人に書いてもらう書式であれば、私は有効であると考えております。
(そのようなケースに備えて、弊事務所では「その場で書いてもう退職届のひな形」をご用意しておりますので、ご希望のお客様はお申し付けください。)
そして、ここからが極めて重要なのですが、上記退職届に対して、すぐさま「退職承諾書」を発行していただきます。
この原本2枚の紙のやり取り(退職承諾書のコピーの会社保管は必須)で、「こんな会社やめてやるわ」と言ってきた従業員の退職が、法的に確定します。
(退職承諾書のひな形もございますので、ご希望のお客様はお申し付けください。)
■3 「こんな会社やめてやるわ」と言ったまま姿を消して、その日に戻ってこなかった場合は?
このケースにピッタリの裁判例を存じ上げませんが、ある病院の事件で、退職勧奨を受けてその場で「退職さしていただきます」と発言し、事務部長から「はい、わかりました」などの返事を受け、2日後に「私物の持ち帰り、PCのネットワーク上の自身のフォルダ削除」をしたうえで、退職願が作成されないまま退職の撤回を求めてきた事案で、裁判所は退職の効力を認めました(撤回を認めなかった)。
これは、退職を前提とした行動が重なったから、退職の効力を認めたのだと思います。
※退職に関する書面がなくても、事実関係で退職の効力を認めたわけですが、リスクを減らすために、下記のご対応がベターだと思います。
この事案を踏まえ、口頭での退職の申し出をし、退職届を書いてもらうことなく職場を離脱した場合、すぐさま、「令和5年3月●日●時、当社A会議室において、貴殿が当社代表取締役社長に対し述べた『こんな会社、今日やめてやるわ』との貴殿からの退職の申し出について、貴殿が令和5年3月●日付で当社を退職されることを、当社として承諾いたします。」という一文を記載した退職承諾書(押印後の原本)のpdfを本人宛にメールで送信し、その日のうちに必ず特定記録郵便で原本を本人住所に送付してください。
当然、退職承諾書の押印後の原本のコピーと送信メールを印刷し、両方セットで会社保管してください。
ここまでしておけば、私の過去の経験上、退職の撤回を求められたことはありません。
法的に100点満点とは思いませんが、少なくともトラブルは起きていません。
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