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会社独自の管理監督者の残業代請求にはくれぐれもご注意を!

更新日:2021年10月1日

■1 労基法上の管理監督者とは?

一言でわかりやすく申しますと、残業代(深夜割増は除外)を支払わなくてもよい人が、労基法上の管理監督者になります。

どのような人が該当するのか、おさらいも含めてポイントを挙げますと、以下の4点になります。

※(1)(2)の要素がまず重要で、その他(3)(4)の要素も総合的にみます。

(1)部門全体の統括的立場

(2)部下の労務管理等に一定の裁量権がある

(3)賃金等の待遇は良い

(4)出退勤などに関して自己決定権あり


■2 管理監督者性を争って会社が負けた裁判例

【日本マクドナルド事件 東京地裁判決平成20年1月28日】

(出典:公益社団法人全国労働基準関係団体連合会HP)

有名な裁判例ですが、マクドナルドの店長が名ばかり管理職と主張し残業代請求をした事件です。

結果は会社の敗訴です。

ポイントは、アルバイトなどの欠勤等で、店長自らがハンバーガーなどをつくっていたこと等(プレイヤーの役割)にあると、日本で一番著名な労働法の学者の先生(弁護士や裁判官も参照している大学者)が言及しています。

ちなみに、労働法専門で日本一強気の使用者側弁護士の先生は、「労基法は事業場(本事件ではお店)単位でみるのだし、労基法の条文は、監督若しくは管理の地位にある者、となっているのだから、「管理監督者」というように「監督と管理」の単語をまとめるのはおかしい。未払い残業代ではなくて、別の名目(例えば長時間労働に対する慰謝料)で支払い命令を出すべきではなかったか(趣旨)」と、当時言われていたと記憶しております。


■3 管理監督者性を争って会社が勝った裁判例

【セントラルスポーツ事件 京都地裁判決平成24年4月17日】

<被告>

東京を中心に約160店舗のスポーツクラブを運営

<原告>

エリアディレクターとして、計6個所のスポーツクラブ、約180人の従業員を統括

<原告の仕事内容>

・各店舗の運営状況の把握

・従業員の労務管理、人事考課、昇格、異動の提案

・店舗のサービス改善、指示、イベント等の企画

・営業戦略会議への出席(被告の営業戦略への関与)


■4 セントラルスポーツ事件の管理監督者性へのあてはめ

上記■1で挙げました4要素を、原告にあてはめます。

(1)部門全体の統括的立場

・原告の地位→営業本部長・営業部長についで、現業部門で上から3番目であり、全従業員中、上位1%未満の地位

・仕事内容→各店舗の運営状況を把握し、数値管理と運営指導

・経営に関すること→営業戦略会議への出席

※他の会社勝訴事件では、所属部門で最上位者だったケースあり


(2)部下の労務管理等に一定の裁量権がある

・部下に対する労務管理の有無→統括エリアで勤務する従業員の労働時間を管理する権限

・人事権、人事考課、昇格、異動→新卒採用以外には関与、1次2次の人事考課に関与、昇格異動に提案権限あり

・その他の権限→担当エリアにおける予算案の作成権限と、独自の予算権限あり

※他の会社勝訴事件では、高額備品の購入あり


(3)賃金等の待遇は良い

・副店長が月に100時間残業を行って、やっと原告と同等の賃金になる

・上記賃金に加え、業績給も支給あり

※他の会社勝訴事件(ホテル業)では、ホテルの部屋を無償で提供


(4)出退勤などに関して自己決定権あり

・遅刻、早退、欠勤をしても、賃金控除なし→いわゆる完全月給制

・業務時間中に接骨院に通院

※他の会社勝訴事件(同上)では、業務時間中に温泉に入っていた


いかがでしょうか。

管理監督者として認められるには、随分な権限と自由度があるように思われませんか。

私の基本的な認識では、大企業でも労基法上の管理監督者は少なく、中小企業ではほぼいないと思っています。

つまり、会社が管理監督者と思っていた役職者から残業代請求をされた場合、負ける可能性が非常に高い、という認識です。


■5 高額残業代請求にもつながる管理監督者の素朴なQ&A(冨島版)

Q:会社が管理監督者と思っている人にタイムカードを打刻させるのは、管理監督者性を弱めるか?

A:弱めるとは限りません。逆に、タイムカードの打刻がないと、未払い残業代の水増し請求にもなりかねませんし、労働時間の状況の把握が法的に必要ですので、タイムカードの打刻があっても良いと思います。

もちろん、タイムカード以外(PCのログなど)で労働時間(の状況)の把握をしていただいても良いです。


Q:管理監督者(部長など)ではなく、登記上は取締役・役員報酬は月額30万から60万、社長から当該役員への指示等は部課長への指示度合いとさほど変わらない場合、労働者性や管理監督者性を争われるか?

A:私の見聞きしている範囲では、取締役にした場合、労働者性(実態は労基法上の労働者である)を争って会社が負けるケースがありますが、管理監督者性はなぜか負けるケースが少ないイメージです。

※労働者性が認められれば、そもそも残業代は1円も払っていませんので、極めて苦しい状況になります。


Q:どういうケースなら、取締役の管理監督者性を争われる可能性が低くなるか?

A1:感覚としては、全従業員の10%が取締役というのは多いと思われ、限りなく数値が少ない方が良いかと思います。

どこかの学習塾で、たしか取締役を300人にしていたケースもあったかと(笑)→危険です。

A2:欠勤控除は管理監督者性への影響は比較的低いかと思いますが、早退遅刻控除は危険です。


Q:管理監督者性を争うきっかけはどういうものがありますか?

A:会社と揉めて退職する際に、腹いせ的に残業代請求をする類型(うらみ型)、転職先が決まっていて何となくスマホで見ていた弁護士の残業代請求広告(完全成功報酬)をきっかけにとりあえず電話したら、数百万円手に入る可能性が高いと言われ残業代請求をする類型(もらえたらラッキー型)の二つのパターンが、きっかけとしては多いように思います。


Q:管理監督者性を争う場合、労基署・労働組合・弁護士の3つのうち、どこに相談してやってくるのですか?

A:監督署は圧倒的に少ないイメージで、私の実務ではゼロ件です。10年以上前は管理職向けの労働組合が関与するケースがありましたが、今は、圧倒的に弁護士です。上記のQAでも述べています、残業代請求広告を出している弁護士が、今はものすごく多いです。私のお客様は残業代を払う方であって、もらう方ではありませんので、スマホなどで検索しないと思いますが、もらう方・もらえるかもしれない方は、非常に高い確率で見ています。あとは、行動に移すかどうかだけのような気がします。


Q:管理監督者性を否定されると、なぜ残業代請求が高額になるのですか?

A:深夜を除く割増賃金について、払っていないケースがほとんど(労基法上の管理監督者なら不要なため)で、かつ残業単価が異常に高く、法定外の時間外労働が普通の社員より多く、トリプルパンチになるからです。


Q:管理監督者に限らず、もめそうな従業員とは退職合意書を取り交わす場面があり、清算条項(債権債務は相互にないことを確認)は必ず入れますが、裁判になり、管理監督者性を否定されても、清算条項を基に未払い残業代を払わない、というのは通りますか?

A:退職にあたって割増退職金を払っている場合は、勝訴的和解もあり得ますが、何もお金を払っていなければ負けると思っていただいた方が良いです。


■6 まとめ

いかがでしたでしょうか。

久しぶりに管理監督者の残業代請求問題を取り上げました。

一般の従業員とは違い、会社の上位役職者の方の人数は限られていますので、在籍中の平社員と違い、残業代請求が会社全体に広がるというケースは少ないと思います。

しかし、一発が大きい額になります。

2代目社長との折り合いが悪く、辞める際の腹いせに残業代請求をするとかが昔は多かったように感じますが、今は、上述のように、行動を起こすきっかけの広告が多く、防ぐ手立ては、労基法上の管理監督者と認定されるだけの条件をそろえるか、一応は上位の管理職だけれども残業代は払うかのいずれかになってくるかと思います。


とはいえ、上位の管理職と会社との信頼関係は構築されていることが前提ですので(なければ上位管理職にしない)、会社経営陣との相応の感情のもつれがなければ、残業代請求には発展しないというのが、まだ、今の日本だと思います。

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