解雇の金銭解決「あっせんと労働審判等」

更新日:8月1日

2021年7月26日付日経朝刊の法税務という紙面に、「解雇の金銭解決 実は定着」という見出しの記事が出ていました。

同記事の内容を参照しつつ私なりの見解などをまじえ、述べていきたいと思います。


■1 解雇の金銭解決 実は定着

私は労務問題専門ですので、金銭解決自体は日常的な感覚であり、「実は定着」ではなく、私が社労士になった「約12年前からとっくに定着」しています。

新聞見出しにこのような内容が出たのは、解雇の金銭解決の議論が、厚労省で以前からされているからだと思いますが、同議論の内容をシンプルに申しますと、「解雇の際に会社が払う相場金額をきめようよ」というものです。


記事では、労働審判などで年間4500件もの金銭解決が実質的に行われているとありましたが、この書きぶりだと、結構多いイメージを一般の方は持たれると思いますが、私の感覚では、かなり少ないイメージです。


年間4500件で済んでいるはずがありません。

労働局が開く「あっせん」と裁判所での「労働審判等」での数字が、単に年間4500件の統計数字しかないだけで、当事者同士、労働組合がらみ、弁護士がらみの「あっせん・労働審判等以外での和解」は、かなり多いはずと感じます。

私が新規でご相談をお受けする数からしても、年間4500件で終わっているはずがないと思います。


■2 「あっせん」と「労働審判等」の違い

労働局で開かれる「あっせん」は、行政機関の場での第三者を交えた話し合いで労働紛争を解決する制度、とイメージしてください。

当事者だけでなく、私のような特定社労士が代理人になれます。

私が顧問社労士とならせていただいた会社様で、新規の解雇がらみの紛争は1件もないため、「あっせん」での代理人になる必要性がない状態が続いております。

(代理人になる必要性を発生させない手段を助言しています。)


労働審判等とは、「労働審判」と「民事裁判」の二つを指していますが、ここまできているということは、ほぼ労働者側に弁護士がついている状態です。

突然、代理人弁護士から内容証明郵便がきて交渉が始まり、交渉がまとまらず労働審判に移行するか、最初から労働審判でくるか、もっと本気であれば最初から民事訴訟か、という大きく3パターンに分類できますが、いきなり民事訴訟はあまり聞きません。

「労働審判等」は行政機関ではなく、裁判所案件であること、そして通常は代理人弁護士をたてるというのが一般的です。


■3 解雇事案の会社の負担金は?

軽い方から、次のとおりとなります。

※( )の金額・月数は、解決金の中央値・月給換算月数

あっせん(20万円・1.4か月)<労働審判(120万円・4.8か月)<民事訴訟(200万円・6.7か月)

一目瞭然で、「あっせん」の額が低いことがわかります。

※上記はあくまで中央値であり、会社の勝ち筋と負け筋がありまして、負け筋だと上記の2倍は十分あり得ますし、それ以上も当然あり得ます。


「あっせん」が安いから、会社はとりあえず解雇して、「あっせん」に持ち込めば良いと思われるかもしれませんが、参加するかどうかは自由ですので、労働者が参加しないと言えば、その時点で「あっせん」は打ち切りとなります。

私の感覚では、労働法に詳しくない、またはほとんど調べもしない、という労働者がとりあえず監督署に相談に行って、労働局の「あっせん」制度を紹介されて、利用しているというケースがかなり多いのではないかと思います。


新規のご相談の方が「解雇した労働者から、あっせんを仕掛けられた」と言われることがありますが、私は即座に「絶対参加された方が良いです」と言います。

理由は、解決金が非常に安く済む可能性が高いからです。


話があっちこっちに行って申し訳ありません、ブログですのでご容赦を。

話を戻して、「安いあっせんは使い勝手が良い」とは、絶対思わないでください。

労働者があっせんに応じてくれれば良いですが、拒否されて、労働組合や弁護士に「会社から不当解雇された」と相談に行かれ、会社の負け筋の解雇事案なら、たちまち泥沼にはまって苦しくなり、「あっせんを想定した軽い気持ちの解雇」を心から悔やむことになります。


■4 あっせんの申請をされたら

万が一、私のお客様が労働者からあっせんの申請をされましたら、まず私にご相談をいただいたうえで、積極的に参加してください。

「あっせん」で事案が終了できるなら、上記でご覧いただいたとおり、会社の負担は一番軽くて済みます。


代理人のご依頼を私にいただければ、顧問先のお客様限定で受任させていただきます。

しかし、不本意ながら、別途報酬をいただくことになってしまいます。

※それなりに労力と日数を要します。


上記の趣旨は、私の営業目的でのお話ではなく、「あっせん」であっても、代理人を立てる場合はどうしても解決金以外の費用も発生してしまう、ということをお伝えしたかったのです。

ですので、結論としては、「あっせん」にも持ち込まれない当事者間の話し合いでの解決、これが最善の策なのです。

この最善の策を導き出すにはどうすればよいかを日々模索しながら、私は助言させていただいている次第なのです。


■5 労働審判等に持ち込まれたら

これも相手のあることですので、会社が非常に気を付けていても、可能性をゼロにすることは残念ながらできません。

労働審判等になれば、お客様のご希望をお聞きしたうえで、私の顧問弁護士をご紹介し、お客様・私・顧問弁護士の三者で打合せ等をしながら、事案に対処しております。

※私の顧問弁護士は、使用者側の労働法の世界では、「大谷翔平」的な存在で、私より若いですが、弁護士キャリアは私の社労士キャリアと、奇しくも同じです。


労働法の問題で、会社が弁護士に依頼する場合、会社の全面勝訴でも、得るものはほぼ何もなく、被害がゼロ円で済んだ、というだけの話になるのが通常です。

しかし、弁護士費用は、ここでは言及しませんが、私とは桁が違うと思います。

ですので、私の顧問弁護士をご紹介することがないように、また、私自身が「あっせん」の代理人のご依頼をいただかなくても良いように、当事者間で問題解決をしていただくのが、一番コストを抑えられて、かつ労力も最小で済む手段なのです。

(一時は悔しく苦しいこともありますが、嵐は過ぎ去ります。)

これが、労働法の世界で、会社にとってベターな選択なのです。


このベターな選択は、最初の■1の4500件には当然含まれていないわけで、私の感覚では一桁違うぐらい世の中にはあると思います。

合意書などに守秘義務条項があるのが普通ですから、表面化していないだけだと思います。


■6 さいごに

労務問題が起きて会社が得るものは、「教訓」以外には、ほとんど何もないと思います。

そのうえで、あえて申し上げれば、企業秩序維持等のため、訴訟リスク等を覚悟のうえで解雇やむなし、というケースは勝負どころでしょうか。

企業秩序維持等の効果と訴訟リスク等のデメリットを天秤にかけた高度な経営判断になってきます。

このような事案に遭遇した場合、お客様だけでなく、私も寝つきの悪い日々を過ごしています。

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