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運送会社の社長と男性元社員の言葉の応酬、辞職か解雇か?

先月中旬の日経新聞電子版での記事ベースですが、ありがちで興味深い内容でして、ご参考になれば幸いです。

※この事件が論文化されるとしても、もっと後日になりますので、下記は全て日経新聞の記事をもとに書いております。


■1 6月16日(日)日経朝刊27面(社会)見出し「言葉の応酬、辞職か解雇か」

紙媒体での朝刊でも、上記のとおり同じ記事が出ておりますので、まだお手元に紙面が残っていましたら、ご一読の価値ありです。

記事を私なりに要約をしますと、以下のとおりです。


【事件のポイント】

・運送会社の社長と男性元社員(今の立場の表現に統一します)との「退職に関する言葉の受け取り方」が争点

・得意先から出禁(社長の怒りは収まらず)となった男性元社員が会社に話を聞いてもらえず、「もう勤まらない」と言い捨てた

・それをうけて、社長は「勤まらないなら私物を片付けて」と応じ、男性元社員は会社貸与の携帯電話と保険証を置いて立ち去り、二度と出勤せず

・結論は、東京高裁で、会社側が一定の解決金を支払うことで和解が成立


■2 事件の経緯

詳しく書きますと長くなりますので、要点だけ整理をしますと、

・得意先からの出禁について、社長は激高し「おまえのせいで取引先を出入り禁止になった。謝れ、謝れ」と発言

・男性元社員としては身に覚えがなく、改めて話す機会を持ったが、取りつく島もなく「もう勤まらない」と言い捨てた

・上記■1の社長の発言等

・退職後、もんもんとしていた男性元社員が労働審判を申し立て、会社側は「解雇はしていない」と反論

→会社側に150万円の支払いを命じる審判

・話はまとまらず、男性元社員が通常訴訟(東京地裁)を起こす

・東京地裁は、社長の発言を「男性元社員に対する解雇通告と捉えた行動とみて何ら不自然ではない」と判断し、雇用関係は現在もあり、会社側に未払い賃金などの支払い命令

→男性元社員が会社を自ら辞職したとは認められない

・会社側が控訴し、東京高裁で和解が成立し、解決金を支払い事件は決着


■3 東京地裁での争点は、二つの言葉の真意

前提として、業務のミスで社長は男性元社員を叱責したことから事件に展開しました。

ミスが起きなければ叱責もないのですが、創業以来ミスはゼロという会社はないと思いますので、この叱責とその後が重要でした。

→実務の理想は、その叱責に至るまでが大事なのですが。


【男性元社員の発言】

「もう勤まらない」

【社長の発言】

「勤まらないなら私物を片付けて」


<男性元社員の主張>

「もう勤まらない」とは言っておらず、一方、社長の発言は解雇通知

<社長の主張>

解雇はしておらず、一方、男性元社員の発言は辞職か退職の意思表示

<東京地裁の判断>

「もう勤まらない」は自暴自棄になっただけ、一方、「私物を片付けて」は退職を求める発言


■4 冨島の率直な感想

事案発生の際、もう一人の冷静な社長の右腕的な方がいて、話し合いがもたれていれば、このような事件にはならなかった可能性がかなり高いと思います(お互い感情的になり、思わず言い合ってしまったままの結果が本件かと)。

そのような方がいない企業規模だったのかもしれませんが、ともあれ、お互いの言い分をなるべく冷静に伝えあうという、シンプルなことができていなかったようです。

もし企業規模の小さい会社であれば、出禁は会社売り上げに即応し痛手が大きいため、社長の激高は痛いほどわかるつもりですが、その後のフォローをする方がいなかったのが非常に残念です(社長がセルフコントロールするしかないかと。大変ですが)。


しかしながら、社長発言は解雇通告だとの東京地裁の判断には、極めて強い違和感があります。

東京地裁は、その他多くの地裁と違い、労働事件専門の裁判官がいると聞いており、我々の業界では東京地裁判決を結構重視するのですが、この事件の判決には全く賛成できません。

かなり強引に労働者保護で考えたとしても、「私物を片付けて」との社長発言が解雇通告とはいいがたく、あえて無理やりに会社不利として言葉の真意を見いだすとしても「退職勧奨的な意味合い」がせいぜいなのではと私個人は強く思います。

→新聞記事には出てきていない前提事実が、他にあるのかもしれませんが。

東京高裁では、その点の修正等があり、和解成立になったのではないか、と想像しております。


■5 お読みいただいて、どのように感じられましたか?

結局のところ、やはり労働事件は、法律論よりも感情論が先行してしまうと思わざるを得ません。

今回の事件で考えた場合、問題社員は50人規模の企業であれば一人は存在(経験上の推測)し、社長が感情的になる前段階に事案の原因があることが多いですが、もしそうであれば余計に、事案発生時に感情的になってしまいますと会社不利になることが多いです。

ですので、感情的になりそうなときには、労務問題警戒アラートが社長の胸の中で鳴ってほしいのです。

以前のブログで取り上げたアンガーマネジメント関係の記事にリンクしますが、社長の右腕がいらっしゃれば、必ずその方などが、社長に警戒アラートをお伝えいただきたいと、いつも思っております。

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