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あり得る配転命令トラブル(近時の裁判あり)

更新日:2024年2月15日

■1 配転(配置転換)の原則

会社には解雇規制の法律が適用されますので、そのかわりに配置転換を命じる権利を比較的広範囲に有していると考えられています。

ただし、就業規則と労働契約書に配置転換を命じる旨の規定などが必要です。

従業員は、会社との労働契約(就業規則+労働契約書)に基づいて、配置転換命令を受けなければなりません。

正当な理由もないのに、かたくなに配置転換命令を拒み続けた場合、解雇事由に該当することがあります。


■2 例外的に配転命令できない場合

以下の2点が主なものになります。

(1)労働契約による制約

→就業規則に配置転換命令の規定がない場合や、職種または勤務地(両方の場合も)が限定された労働契約書を締結している場合などです。

(2)権利濫用法理による制約

→この類型が裁判において争点になることが多いです。


■3 配置転換命令の権利濫用法理による制約

(1)業務上の必要性がない場合

→この点は、この人でなければどうしてもダメというレベルまでは求められておらず、配転の人選に関し、比較的広範囲に会社の裁量が認められています。

(2)配転が不当な動機・目的である場合

→代表的なのが、内部告発をしたことに対する報復人事です。

(3)労働者が被る不利益が通常甘受すべき程度を著しく超える場合

→同居家族の介護や育児等の私生活上の不利益、賃金上の不利益等が問題となります。


以上のように、権利濫用法理による制約は、会社が注意していれば事前に防げる可能性が高い内容かと思います。


■4 労働契約による制約

これも、配転命令に関し、きちんとした就業規則の規定と労働契約書の文言があれば、形式的には問題なさそうです。

しかし、悩ましいのが、例えば、経理経験●年以上・簿記●級以上の求人をし、面接時も経理キャリアの話が主であり、「入社後は当社の経理責任者をしてほしい」的な話をしているが、職種限定の労働契約ではない場合などです。

このような前提で、経理以外の他の職種に配転させる場合、就業規則と労働契約書に基づいて配置転換命令を出しても問題ないでしょうか?


■5 形式論ではなく実態で判断すべき

配転先(例えば営業)にもよりますし、相手の方にもよりますが、私はもめる確率がそれなりにある(年齢が高いほど確率上昇)と思います。

上記■4の求人から採用に至るまでの経緯で、本人の経理責任者としてのキャリアへの期待が法的保護に値する、となる場合があります。

労働契約による制約が類推適用される(職種限定合意があったと類推できる)可能性もあるかもしれませんし、なにより、権利濫用法理による制約が適用になる可能性があると考えられます。

つまり、経理責任者としてのキャリアへの期待を白紙にするのは、「労働者が被る不利益が通常甘受すべき程度を著しく超える場合」に該当する可能性があるということです。


■6 このようなトラブルを回避するには採用に力を入れるべき(がっかり回避)

形式論だけでなく、運用実態でも会社が不利になる言動には気を付けていただくのがまず第一歩ですが、個人的には、会社が求める経理責任者としての実務スキルの有無を確かめるためのテストを、採用面接時にやってもらうのが良いと思っています。

具体的な経理責任者の適性試験は存じ上げませんが、例えば、「この題材で、●分以内にエクセルを使用して●という経理書類を作成してください」という感じです。

履歴書や職務経歴書では、なんとでも書けます。

また、ある程度の年齢の方なら、面接時になんとでも言えます。

ですので、採用面接の際、自社の求める実務スキルがあるか否か、その場でテストするのが良いと思います。


また、DPIなどの適性検査も必ず実施していただいた方が良いです。

更に、経理担当での採用検討であれば、身元保証書は絶対に取り付けるべきです。

その際の極度額(上限額)は、300万円以上が良いと思います。

企業規模などにより異なりますが、従業員50人規模で経理の係長クラスなら最低でも300万円というのが私の感覚です。

同規模で経理課長なら最低500万円、経理部長なら最低1,000万円、という感じでしょうか。

経理畑を長くやっていて問題を起こしている人は、身内も見放していることがありますから、身元保証書を出せるかどうかは、絶対に必要な判断材料です。


話しが脱線しますが、入金と出金の担当者は絶対別々にすべきと私は考えています。

同一人物ですと、不正経理ができる機会が多くなると思われるためです。


■7 さいごに

ともあれ、職種限定と受け止められるような言動や、採用経緯には注意が必要だと思います。

まずは、採用時の職務は決めなければなりませんので、面接時にその話が多くなるのは自然なことですが、配置転換することもある旨を面接時にお話ししておかれるのも一つの手段だと思います。


もっとも、最初から職種限定で採用する予定なのであれば、労働契約書に「●職限定で配置転換・職種変更をすることはない」と明記しておいた方が良いと思います。

そうした方が、相手の方にとっても本意でしょうし、会社にとっても、本人の業務遂行レベルが極めて低い場合の解雇のハードルは、職種限定がない労働契約よりも低いと思います(退職勧奨の話もしやすいですし)。


また、キャリアへの期待が法的に保護されるような「求人から採用までの一連の流れ」は要注意です。

「●+▲=要注意」との数式はないですが、少なくとも、上記で述べております経理責任者への期待のようなパターンは要注意です。

このパターンで本人の能力不足が入社後に発覚しても「時すでに遅し」です。

配転命令は出しづらいですし、年齢が高くなればなるほど、長期戦になったり、もめにもめたりします。

そうならずに済むように、どうか、採用には今以上に力を入れていただきたいと思います。

人手不足の中で選んでいられない状況はありますが、採用に失敗しますと、その後の労力の方が「割に合わない」と思いますので。

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