2022年4月7日の日経新聞朝刊2面に「限定正社員 普及へ一歩」という記事が出ていました。
そこで、「どうなの、限定正社員(ジョブ型雇用:勤務地・職種限定)って?」と題し、私の頭で整理してる内容をお伝えしたいと思います。
■1 限定正社員とは?
一般的に、ジョブ型雇用の正社員をいい、職種限定や勤務地限定の特約がついた雇用契約の正社員と位置づけられています。
特に法律の定めはなく、シンプルに、民事上(労使間の契約上)のお話になってきます。
入社の際に雇用契約書(=労働契約書、以下同じ)を取り交わすかと思いますが、その契約書に「勤務地:●●限定とし配置転換等による勤務地変更は行わない」や「職種:●●限定とし配置転換等による職種変更は行わない」などと記載して契約するのが、限定正社員の位置づけとなります。
■2 限定正社員専用の就業規則は必要か?
私は、現時点では、まだなくても良いと考えています。
企業規模を問わず、正社員の就業規則は、通常、配置転換等による勤務地や職種変更を命じる旨の規定があるのが一般的です。
※ここでは、単に正社員という名称を、上記の変更が無限定の場合を意味するものとします。
上記の無限定である正社員就業規則を前提に、特約(労働者に有利なもの)として、勤務地限定や職種限定の契約書を取り交わせば、正社員就業規則を上回る労働者有利(限定特約部分)の合意が優先されます。
つまり、正社員就業規則はそのままで、雇用契約書で限定特約の合意をすれば、それで足りるというのが私や学者・弁護士の解釈になります。
当然、限定正社員の人数が多ければ、それ専用の就業規則があった方が良いとは思いますが。
■3 限定正社員の勤務地や職種がなくなったらどうなるのか?
原理原則で申しますと、働く場所や仕事自体がなくなるわけですから、雇用契約は終了(=解雇)となります。
この場合、普通解雇ではなく、整理解雇になってきます。
整理解雇は、会社だけの都合(労働者に責任なし)のため、普通解雇よりも更にハードルが高くなり、以下の4要件(古くからの解釈)を満たす必要があります。
(1)人員削減の必要性
(2)解雇回避の努力義務
(3)解雇対象者の人選の合理性
(4)労働者へ説明・協議
ただし、現在の裁判例では、上記の4要件ではなく、4つの要素として総合的に考慮して判断をするものが多くなってきています。
とはいえ、整理解雇のハードルは高く、相応の企業努力が必要になってきます。
※整理解雇は奥が深いので、ここまでにとどめます。
■4 整理解雇での紛争を避けるには?
シンプルですが、話し合いでの合意退職を粘り強くされるのがベターだと思います。
限定正社員だからといって、勤務地や仕事がなくなったから即整理解雇というのは、リスクが高いです。
正社員の整理解雇よりはハードルは低いですが、真っ向勝負は避けて、話し合いを重ねた方が断然良いと思います。
■5 限定正社員を雇用するメリットは?
正社員募集だけよりは、応募者が集まりやすいかも、という点でしょうか。
もうひとつは、正社員よりも整理解雇のハードルが低いことです。
実際に整理解雇に踏み切らなくても、話し合いで退職合意ができる可能性は高いと思います。
理由は、限定正社員の応募の動機が、●●限定であり、その限定部分がなくなったら他への転職を考える人が比較的多いと思われるからです。
■6 新聞記事では労働条件の通知は、採用直後の勤務地や職種とあったが?
企業は、労働者を採用した際、労基法上、最低限、労働条件通知書を交付しなければなりません。
そこには、採用直後の勤務地と職種だけ(変更可能性は不記載)書かれていることが、世の中の企業では多いように思います。
しかし、私は、それだけでは良くないと昔から思っていました。
労働者への労働条件通知書ではなく、雇用契約書で双方所有する形式とし、なおかつ、勤務地や職種が配置転換等で変更される旨を記載して合意すべき、と考えています。
事業所が複数ある企業が転居を伴う異動(転勤)で揉めた際、雇用契約書の記載がどうなっていたのかは、最低限の重要項目となってきます。
最初から異動の可能性を雇用契約書に書いておき、正社員就業規則にも同じ趣旨の規定があれば、雇用契約書と就業規則に有利不利は発生しませんので、異動について、人事権の濫用や不当な目的などがない限り、普通は揉めません。
何をお伝えしたいかといいますと、新聞記事の内容は労基法の最低基準であり、その基準だけ守っていても民事上の揉めごとを回避することは難しい、ということです。
ですので、労基法を上回るリスクヘッジを会社はすべきであり、法制化の前の現時点でも、勤務地と職種が限定なのか無限定なのか、雇用契約書に絶対に書くべきなのです。
■7 おわりに
労務の分野だけでも、私が月2回メルマガを発信できるだけの情報があります。
経営者の方は、会社全体に目を行き届かせ、対応などしていかなければなりません。
ですので、労務の分野で満点を取ることは困難を極めるかと思いますが、重要なことから順番に押さえていただき、リスクヘッジをしていただきたいと思っている今日この頃です。
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