片山組事件からひも解く会社の復職判断

更新日:10月29日

■1 休職者の主治医は、当然ですが、患者の味方

私傷病休職を経たのち、当該休職期間満了日までに、休職者の主治医から「●業務であれば就労可」という趣旨の診断書が出されるケースが、実務の現場では非常に多いです。

とくに、メンタル不調の方の場合には多いです。

このような主治医の診断書が出された場合、会社は私傷病休職からの復職を認めるか否か、かなり迷われると思います。

このようなケースの場合、私の業界で参考にされている最高裁判決に「片山組事件」というものがあります。

https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/07115.html

(引用:公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会HP)


■2 片山組事件の概要

詳細は上記URLをご参照いただければと思いますが、私なりの言葉で要点だけ簡単に申しますと、「職種限定ではない労働契約が前提の人であれば、本人が『●業務なら働ける』と言っている場合(同趣旨の主治医の診断書あり)、●業務を行わせることができる企業規模なのであれば、●業務に就労させるべき方向となる」という事件概要です。

※この事件では、主治医の診断書が重要な争点にはなっていませんが、休職・復職に関する通常の実務では、「主治医の診断書」は重要な位置づけになります。


私自身は片山組という会社を詳しく存じ上げませんが、私の就活時の記憶と、会社HPを見る限り、建設関係の大手企業の部類に入る会社かと思います。

その会社で長く働いてきた現場監督の方がバセドウ病という病気になり、事務仕事なら就労できると申し出ましたが、会社は自宅治療命令を出し、約4か月間欠勤扱いとして賃金を支給せず、冬期一時金も減額しました。

労働者側は、その措置を不当として賃金等を請求した事件になります。


■3 片山組事件の最高裁判例は、復職の可否のケースでよく使われる論点

実務家や学者もですが、この片山組事件というのは、私傷病休職を経て復職を申し出た休職者を、復職させるか否かの判断基準として、よく引用される最高裁判例です。


論点を私の言葉でまとめますと、

(1)まず、労働契約は、職種限定や勤務地限定があるかないか?

→労働契約に限定特約がなければ、片山組事件の判断枠組みで検討することになります。

 ※ポイント:企業規模が大きくなればなるほど、「●業務」に配置転換することは可能であると判断される方向へ。

(2)上記特約が無い場合、「主治医の●業務であれば就労可」という診断書の提出とともに、主治医のいう「●業務の就労(復職)」を本人が申し出ているか?

→診断書があり、本人が申し出ているなら、片山組事件の判断枠組みで検討することになります。

 ※ポイント:同上

 【重要】主治医の診断書に対して、いろいろな考えも浮かぶケースがありますが、裁判所的には、主治医の診断書はかなり重視します(産業医よりも、と言って差し支えないレベルです)。

(3)企業規模が大きくなればなるほど、就業規則の復職判断基準の文言だけで判断せず、片山組事件の最高裁判例の判断枠組みは必ず検討されたほうが良い。

→私の就業規則のひな形は、労働契約の本質的な意味合いである「従前の業務を遂行できること」を復職の前提としていますが、実務では、片山組事件の最高裁判例を意識せざるを得ません。

【重要】従業員数が何人から気を付けるのかという線引きは難しいですが、少なくとも100人規模であれば、配置転換を検討しやすいと推測でき、「休職期間満了時に●業務などさせる余裕はないから退職扱い」というのはリスクが高いと考えます。

(半分の50名規模でも、企業実態に応じて、片山組事件の最高裁判例は意識して対応すべきと考えます。特にメンタル不調の場合には。)


■4 悩ましい復職判断 ― 休職者の復職判断は誰がするのか?

休職命令の可否と同様に、復職の可否も、会社がしなければなりません。

私や産業医などの専門家の意見を参考にしていただきながらご判断いただくのが無難です。

ここで、一番気を付けていただきたいのは、上述した主治医の診断書は、かなり重たいということです。

裁判事案になれば、主治医の意見を聴取したかどうかは、非常に重要視されます。

といいますか、当該労働者の体調を一番知るのは主治医であるとして、裁判所は主治医の診断を重視します。

ですので、休職命令を発令するか否かもそうですが、復職判断をする場合、復職後に従事する業務を変更する場合などなど、労働者同席のうえでの会社と主治医の面談は、ほぼ必須になってきます。


■5 本当にそこまでしなければならないのか?

法律の規定で決まっているわけではありませんので、法的実施義務はありません。

しかし、もし、労務問題に発展して、訴訟にでもなってしまった場合、主治医面談をしていなければ、そもそも劣勢からのスタートになります。

一方、主治医面談をしておいたほうが、労務問題に発展しにくいという効果が出ることが多いです。

主治医の先生の意見を、「本人・主治医・会社」の三者で共有するわけですから、いろんな会社の判断に対する労働者の方の納得も得やすいですし、主治医の先生の意見を最大限尊重して会社が対応していれば、真摯に労働者に向き合っているという結果にもなります。

このようなケースにおいて、労務問題に発展するのは、かなりレアケースだと思います。

私の社労士人生の中で、今のところ、一度も揉めたことはありません。


■6 さいごに

復職判断の際の主治医面談は義務ではありませんが、実施するメリット、実施しないデメリットを比較検討したとき、会社としては実施したほうが良いです。

もっとも、労働者の方の病状等にもよりますが(軽い傷病などは実施なしでも問題ないケースもあります)。

最近よく思うことなのですが、結局のところ、労務の世界は「手間をかけた分しかリスクは減らない」ということが、今回の記事でも言えます。

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