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出勤停止・自宅待機・休業命令・労務提供受領拒否の違い

更新日:2023年5月1日

この記事の執筆時点(4/28 14:00ごろ)では、まだ厚労省のHPにQ&Aは出ていませんが、今後、従業員が新型コロナに罹患した場合や濃厚接触者になった場合に、どうすればよいのかというご相談が増えるような気がしています。

感染症法上の位置づけが、5月8日に季節性インフルエンザなどと同じ5類に移行することが正式決定しましたが、出勤の可否、賃金支払いの可否について、厚労省のQ&Aが早く出てほしいなと思っております。

季節性インフルエンザの労務提供受領拒否(=賃金なし)は、法的に難しいのですが、おそらく「●●を推奨します」的な表現にとどまるように思います。

【厚労省HP:新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)】

令和5年3月24日時点版

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html


■1 出勤停止

就業規則の懲戒規定として、一般的に使われている言葉です。

従業員のよろしくない言動等により、就業規則に基づいて出勤停止の懲戒処分をしますが、当然、賃金は支払いません。

ちなみに、出勤停止の日は所定労働日ではありませんので、年次有給休暇は取得できません。

年次有給休暇を含め、休暇というのは、労働義務のある日に労働者の申し出により労働を免除すること、だからです。


■2 自宅待機

いろんなケースがありますが、例えばハラスメント調査のため、加害行為者とされている従業員に自宅待機を命じて出勤させないようにする場合があります。

この場合に一番問題になりますのは、賃金の支払い義務です。

結論としましては、賃金支払い義務が会社にはあります。

労基法上の休業手当(休業させた所定労働日について、平均賃金の60%以上)では足りません。

この点は、経営者の方からしますと、かなり抵抗感があると思います。

「悪い言動等をした人(ここでは真犯人と仮定)の調査で自宅待機をさせるのに、なぜ賃金を支払わなければならないんだ!」とのお気持ちです。

痛いほどわかるのですが、法的には100%の賃金を支払わなければなりません。

日本一強気の弁護士の先生は、懲戒解雇と諭旨解雇処分の調査等において、当該労働者を出勤させず賃金を支払わないという就業規則の規定を設けており、私もそのように規定しています。

しかし、私の顧問弁護士事務所は、懲戒解雇等の調査等の場合でも、賃金支払いはやむを得ないのでは、との見解を持っております。


■3 休業命令

例えば、製造業において、原材料の未入荷により生産ができず、労働者に対し、その日の休業を命じる場合が、休業命令になります。

ここでは、労基法上の休業手当(同上)を支払うことになります。

自宅待機とは異なり、会社が仕事を与えられないために休業命令を出していますので、労働者はその日を自由に過ごせます。

ですので、本来休業命令を出すべき時に、誤って「自宅待機命令」を出さないでいただきたいのです。

なぜならば、自宅待機命令ですと、賃金の100%の支払い義務が発生するからです。

この言葉の使い分けには、くれぐれもご注意ください。


■4 労務提供受領拒否

例えば、自動車運転業務のみの労働契約をしている労働者が、出勤時のアルコールチェッカーで基準値を超え、運転業務をさせることが不可能な場合、会社としては労務提供を受領する(働かせる)ことは無理ですから、労務を認めず退社させると思います。

この例であれば、賃金は支払わなくて良いと考えます。

なぜならば、自動車運転業務のみの労働契約であり、その業務を履行できる状態で出勤するのは労働者の義務であり、その義務が履行できない(債務不履行)のであれば、会社は賃金を支払う必要はないからです。

微妙なケースもありますので、労務提供受領拒否(=賃金不支給)の判断に迷われるときは、私にご相談ください。


■5 まとめ

自宅待機を命じると、原則として、100%の賃金の支払い義務が発生します。

出勤停止や休業命令、労務提供受領拒否(言葉が違っても同じ意味合いのものを含む)とは全く意味合いが違いますし、賃金に直結しますので、言葉の使い分けには十分ご留意ください。

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