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定年後再雇用である嘱託社員と正社員との賃金格差の最高裁判決
2018年6月に出ました正社員と非正規社員との賃金格差の最高裁判決(二つの事件)のうち、定年後再雇用者の最高裁判決について、主なポイントと現時点において想定できる今後の注意点を述べたいと思います。
1 前提
事件の企業は従業員数66名の運送会社で、定年後再雇用である有期労働契約の嘱託社員が、正社員との賃金格差を争った事案です。
嘱託社員の職務の内容及び配置の変更の範囲は、正社員時と定年後の再雇用時と変わりはありませんでした。
正社員時と定年後の再雇用時で職務内容等に変化はないというのは、中小企業の運送会社さんではよくあるケースです。
2 諸手当に対する地裁・高裁・最高裁の判断
能率給・職務給・精勤手当・住宅手当・家族手当・役付手当・超勤手当・賞与について、地裁判決では会社が全面敗訴、高裁判決では会社が全面勝訴でした。
そして今回の最高裁判決では、精勤手当は会社敗訴、超勤手当(残業代)は原審に差戻しとなり、その他の賃金項目については会社勝訴でした。
3 争点となった法律条文
労働契約法20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
4 最高裁判決の主なポイント
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条文上の「職務の内容及び配置の変更の範囲」について正社員との違いはないと認めたうえで、「その他の事情」を考慮
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嘱託社員は定年まで正社員の賃金が支給されていて、老齢厚生年金の支給も予定されており、これらは、労働契約法20条の「その他の事情」として考慮される事情に当たる
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手当など賃金項目ごとに、その趣旨を個別に考慮
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同業同規模の企業で、定年後のこの程度の賃金水準なら許容範囲だろうという世間の一般的な考え方は採用されなかった
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精勤手当が会社敗訴となった理由の一つは、正社員と嘱託社員の職務が同じであるから、両者間で皆勤を奨励する必要性に違いはないこと
5 今後の注意点
正社員と定年後の再雇用者との間で格差のある手当について、その格差理由を不合理ではないと説明できるか?ということが、まずは大事になってきます。
今回の最高裁判決は、労働契約法20条に基づくものであり(最高裁は均衡処遇を求める規定と解釈)、働き方改革関連法で新たに設けられる均等待遇の規定に基づくものではありません。
本件を均等待遇規定にあてはめた場合、地裁判決のように会社が敗訴する可能性があるといわれています。
この点について、均等待遇規定の法施行日までにガイドライン等が出るかもしれませんが、法施行後には注意が必要です。
6 その他
60歳定年で65歳まで有期契約で再雇用する企業は多く、今回の最高裁判決は妥当なものと言えますが、事件の企業は不合理ではないと認められる様々な努力(ここでは文字数の関係で省きます)をしていました。
この事件の嘱託社員の賃金設定は、定年退職前の79%程度となっていましたが、同様の事案であれば参考にはなるかと思います。
ただし、様々な企業努力などが前提としてありますので、単に定年退職前の賃金の約80%なら大丈夫、というものではありません。