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定額残業手当制度導入時の同意書
1 定額残業手当への逆風が少し収まってきた
テックジャパン事件というものがありまして、最高裁まで争ったのですが、その事件以降、定額残業手当制度への強い逆風が吹き荒れました。
これまで通用してきたものが、地裁レベルで軒並み否定され始めました。
しかし、平成30年7月の最高裁判決で、風向きが変わってきました。
2 定額残業手当の昔と逆風時と今
昔は、一言で申し上げますと、「結構ざっくり」でした。
基準内賃金と基準外賃金(割増賃金)が明確に区別され、労基法の割増賃金額を上回る定額残業手当が払われていて、もし労基法に満たない場合は差額がきちんと払われていれば、基本的に問題になることはありませんでした。
※労基法の割増賃金額を上回る定額残業手当の額を設定するというケースが多かったです。
大逆風時においての詳細はここでは省きますが、昔のやり方では無効とされるようになってきました。
今は、大逆風時より柔軟になってきましたが、昔よりは甘くありません。
3 定額残業手当の有効性の一つの重要ポイント
有効性のポイントは多々あるのですが、ここでは、同意書に至るまでの過程に絞ります。
定額残業手当制度を導入する場合、通常は労働条件の不利益変更に該当します。
総支給額は変わらなくても、基準内賃金を減らし(賃下げ+残業単価減少)、その分基準外賃金(定額残業手当を含む割増賃金)を増やすことがほとんどだからです。
不利益変更に該当する場合の最高裁判例(山梨県民信用組合事件・H28.2.19判決)がありまして、不利益変更を有効にするには、労働者の同意書だけでは足りず、労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる客観的事情が存在する必要があります。
4 最低限やるべきこと
定額残業手当制度導入について、説明会を開くべきです。
そして、質問も受け付け回答すべきです。
そのうえで、個別の同意書を作成し、賃金がどのようになるのかを最終確認してもらい、同意書に署名捺印をもらうべきです。
世の中の企業で、上記のようなプロセスを適切に実施しているケースは、少数派かもしれません。
中小企業、特に運送会社など残業時間が長い業種は、従業員から反対意見が出たりすると一気に労務問題に発展しかねませんので、避けてしまう場合があります。
高裁までいったある運送会社の事案では、同意書までは取り付けていましたが、説明会を開催していませんでした。
結果、敗訴的な和解になったようです。
5 説明会+質問受付+回答+同意書
「説明会+質問受付+回答」は、上記の最高裁判例で示された、「労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる客観的事情」の一つになるでしょう。
そのため、労働条件の不利益変更の場面においては、実施すべきです。
そのうえで、同意書取り付けは、必須です。
もし定額残業手当自体が無効となれば、その分の残業代が払われていないことになり、かつ残業単価が跳ね上がります(基準内賃金になるため)。
集団で未払い残業代請求をされると、非常に苦しくなります。
このような論点は、労働法に詳しい弁護士や労働組合は熟知しています。