精神障害の労災認定の基準/パワハラ

2020年6月11日加筆

1 【豆知識】精神障害の労災認定基準における「強」に関して

ざっくり申し上げますと、業務による心理的負荷が「強」となる出来事があり、従業員本人に私的な発症原因などが無ければ、労災認定されるという、会社にとってはリスクの高いものになります。

どのような出来事が「強」なのかは、下記をご覧ください。

労災認定されますと、会社には慰謝料請求などのリスクが発生します。

労災保険には、自賠責保険と違い、慰謝料部分がありません。

2 上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた

※この項は、厚生労働省発表の「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」から引用

2-1【「強」である例】

・ 上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合

・ 上司等から、暴行等の身体的攻撃を執拗に受けた場合

・ 上司等による次のような精神的攻撃が執拗に行われた場合

 ▸ 人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃

 ▸ 必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃

・ 心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった場合

 

2-2【「中」になる例】

・ 上司等による次のような身体的攻撃・精神的攻撃が行われ、行為が反復・継続していない場合

 ▸ 治療を要さない程度の暴行による身体的攻撃

 ▸ 人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を逸脱した精神的攻撃

 ▸ 必要以上に長時間にわたる叱責、他の労働者の面前における威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃

 

2-3【「弱」になる例】

・ 上司等による「中」に至らない程度の身体的攻撃、精神的攻撃等が行われた場合

 

2-4【上記、「弱」及び「中」に関する解説】

上司等による身体的攻撃、精神的攻撃等が「強」の程度に至らない場合、心理的負荷の総合評価の視点を踏まえて「弱」又は「中」と評価

 

「心理的負荷の総合評価の視点」

・ 指導・叱責等の言動に至る経緯や状況

・ 身体的攻撃、精神的攻撃等の内容、程度等

・ 反復・継続など執拗性の状況

・ 就業環境を害する程度

・ 会社の対応の有無及び内容、改善の状況

3 会社としては

一言でまとめますと、上記の「強」「中」「弱」の順に、社内においてパワハラが起きないよう防止するのが非常に大切です。

パワハラゼロが理想ですが、会社は人の集まりですし、加害者側にはパワハラしている認識がないことが多いですから、ゼロはなかなか難しいのが現実かと思います。

しかし、会社としては、「やるべきこと、やれること」をしておかないと、「労災認定→慰謝料等請求リスク+会社の雰囲気が悪化→良い人材の離職」という負のスパイラルに陥ってしまう可能性が高くなってしまいます。

 

ハラスメントに対して、会社は慎重かつ厳正に対応すべきだと、私は思っています。

会社のためにも、被害者のためにも、そして、罪の意識のない善意の加害者のためにも。

4 精神障害の改正労災認定基準が公表(以下、2020年6月11日加筆)

先日、専門検討会報告書が反映された改正版の精神障害の労災認定基準(パワハラ追加等)が公表されました。

その中で、個人的に気を付けていただきたいと感じている点に絞って述べていきます。

(もめそうな気がする点です)

ちなみに、パワハラの労災認定基準は、中小企業の労働者も対象となります。

 

いわゆる「パワハラ防止法」は中小企業ではまだ努力義務ですが、パワハラの労災認定基準はそれとは別物です。

5 心理的負荷「強」の出来事は要注意

上記2でご紹介しましたが、誰が見てもよろしくない出来事はさておき、私が要注意だと思っていますのは、次の項目です。

・心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった場合

 

「中」の例も上記2でご紹介しましたので割愛しますが、「会社に相談しても適切な対応がなく」という部分が一番気になります。

6 適切な対応?

どこまでやれば適切なのか悩ましいですが(可能なら教科書通りが良いのでしょうが)、少なくとも、「不適切な対応はしない」ということは、シンプルで大切な観点だと考えています。

理想的な「適切な対応」を挙げていきますと多々ありますし、会社の実情に応じてどこまでやれるかなどの課題もあると思いますので、逆に「不適切な対応」の例を、私見ですが、いくつか挙げていきます。

 

【不適切な対応例】

  • そもそもパワハラの相談窓口がない

  • 会社としては相談窓口を設置しているが、労働者側はどこが窓口なのか知らない

※上記二つは相談することができませんので、上記5の「会社に相談しても」にも該当しませんし、相談先は外部(行政や弁護士等)になってしまいますので、会社としては避けなければなりません。

  • パワハラの被害申告があっても、きちんとヒアリングしない

  • かえって、説教した

  • 被害申告をしている人のプライバシー保護が不十分

  • パワハラの事実関係の調査をしない

  • 十分な調査をせず、被害申告者だけを異動させる

(これは、労災認定とは違う観点で、かなりもめるパターンかと思います。もっとも、被害者だけの異動を被害者本人が希望していれば、もめる確率は低くなると思いますが。)

 

本題からそれますが、気に入らない上司等を他の部署に配置転換させるため、虚偽や大げさな被害申告をする場合もあり得ますので、やはり、パワハラの事実関係の調査は、慎重かつ丁寧に実行すべきです。

 

他にもありますが、文字数の関係でここまでとします。

7 改善されなかった

会社が適切な対応をしていたにもかかわらず、改善されなかった場合、心理的負荷が「中」のままなのか、それとも「強」になるのかは、行政としては調査のうえ、総合的に判断するとのことです。

会社の適切な対応があっても、他に「強」になる要素がないか調査するということかと思います。

一方、会社の対応が必ずしも適切とは言えず、改善されなかった場合、「強」に近づいていってしまうかと思います。

ですので、会社としては、少なくとも、上記6の「不適切な対応」をしないことが最低限必要だと思います。

パワハラ防止法が中小企業では努力義務の今から、「やるべきこと、やれること」を推し進めていただきたいと思います。

 

 

若干脱線しますが、被害申告者からすると、ご自身の希望がかなわなかった場合に「改善されなかった」と思われるのか、労災認定の現場でも、もめるようです。

8 最後に

セクハラは密室や社外などで行われることも多く、会社側が把握しにくい場合があります。

一方、パワハラは、同僚等の目撃者などもおり、セクハラに比べ把握がしやすいかと思います。

どのハラスメントでも共通ですが、疑わしい場合や判明した場合、そして当然ですが相談があった場合、会社としては迅速に対応すべきで、対応方法は慎重かつ厳正にやるべきです。

 

ここでは詳細は割愛しますが、被害申告者のヒアリングから始まる事実関係の調査、被害申告者らのプライバシー保護、二次被害を出させない対応、事実としてハラスメントがあった場合の加害者側の懲戒処分、その他被害者と加害者とを物理的・業務的に切り離すなど、ハラスメントが起こった場合、会社がやるべきことは沢山あります。

 

「ハラスメント発生→会社の対応が不適切→労災認定→多額の慰謝料等の支払い→有為な人材の離職」という、会社にとって最悪の方向にいかないよう、日常からのハラスメント防止を大事にしてください。

 

そして、もし発生したとしても、不適切な対応とならないよう、十分ご留意ください。