労災認定後の解雇はできるか?

仮に日ごろから勤務態度等がよろしくない従業員がいたとして、何かの拍子に業務上の傷病となり労災が認定され、当該従業員が長期間にわたり働けない(または一部しか働けない)としたら、はたして会社は解雇できるのでしょうか?

結論から申しますと、一定の条件を満たした場合(ただし、一応注意点あり)、または多額の金銭の支払いをした場合(ただし、かなりの注意点あり)、または極めて例外的な裁判例にみられる涙ぐましい大変な努力をした場合以外は、解雇はできない(一部就労可でもかなり難しい)ということになります。

ここで強くご認識いただきたい点は、通常時の解雇でも非常に厳しいわけですから、労災認定後の解雇は、ものすごくハードルが高いということです。

ものすごく、です。

 

上記3つのケースを確認していきましょう。

1 一定の条件を満たした場合

業務上の傷病となり、療養開始後1年半経過しても傷病が治らず、傷病等級が1級から3級に該当し、その後、療養開始から3年を経過した場合等でもこの状態(労災法上の傷病補償年金を受給できる状態)が続くようであれば、労基法上の解雇制限が解除されます。

この状態になると、次の2で述べる「打切補償」を支払ったものとみなされ、解雇制限が解除されます。

※解雇制限がなくなるというだけの話で、実際に解雇が認められるかどうかの議論が残る可能性はあります。

※傷病等級1級から3級に該当するということは、通常であれば就労が困難な場合をいいますし、働けないという前提で傷病補償年金が受給できますので、解雇の有効性の争いになる可能性は極めて低いとは思いますが、他の要素等も含め、解雇しても絶対100%大丈夫とまでは言い切れないと考えています。

2 多額の金銭の支払いをした場合

2-1 打切補償と最高裁判決

「打切補償」とは、業務上の傷病が療養開始後3年を経過しても治らない場合、平均賃金の1,200日分を支払うことで、労基法上の補償を打ち切ることをいいます。

上記1のような業務上の傷病が、療養開始後3年を経過しても治らない場合、平均賃金の1,200日分の打切補償を支払うことにより、解雇制限が解除されるという労基法上の規定があります。

この点について、有名な判例に専修大学事件(最二小判平成27年6月12日)があります。

平成15年3月13日、頸肩腕症候群に罹患したのが発端で、平成23年10月24日に解雇の意思表示をしました。

この事件では、打切補償として約1,600万円を支払い(その他、約1,900万円を別途任意で支払い)、最高裁は解雇制限が解除されると判断しました。

※上記1同様、解雇制限が解除されるというだけの話で、実際に解雇が有効かどうかは別の話になります。

最高裁は、解雇の有効性については判断せず、高裁に差し戻しました。

東京高裁は、労務提供の不能等を認め、解雇は相当と判断しました。

疾病回復のための配慮を欠くといった事情も認められないとしました。

しかしながら、約8年半もの長きにわたり対応し、多額の金銭支払いもし、そのうえで最高裁まで争ったということは、軽い話ではありません。

2-2 裁判にならないだけで、相当数ある話

こういうケースは、実際起こり得る話です。

業務上の傷病が療養開始後3年を経過しても治らない場合、平均賃金の1,200日分もの多額の支払いをしないと、解雇制限は解除されないのです。

例えば、約30万の月給の人の場合、約1,200万円を支払わないと、解雇制限は解除されません。

ただし、解雇が有効と認められるかどうかは、それはまた別の話という、条件まで付いているのです。

労働契約法16条「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」のハードルをクリアーしなければ、解雇有効とはしませんよということです。

普通に考えますと、多額の金銭支払い→解雇裁判→敗訴、となるかもしれないなら、最初から何もしない方が良いようにも思います。

ただ、上記専修大学事件は、どうしも解雇を選択せざるを得ない理由等があったのかもしれません。

いずれにしても、解雇がいかに厳しいか、ここでも改めて考えさせられます。

3 極めて例外的な裁判例にみられる涙ぐましい大変な努力をした場合

K運輸解雇事件(平成元年7月28日  名古屋地方裁判所)

従業員12名全員が運転手のみの運送会社で、運転手がむち打ち(業務上災害)となり約5年7ヶ月、症状固定時からも約2年6ヶ月の間、入通院のための休業・早退などを反復継続していました。

会社は、本来の運転手業務ではない伝票作成補助作業に従事させ、治療等のため欠勤等を許すなど便宜を図り、むち打ちが回復するよう誠実にサポートしていました。

解雇に先立っても、所属労働組合とも協議、同意を得るなどしたうえで解雇に踏み切りました。

裁判所は、本件を解雇有効と判断しました。

従業員数12名で、しかも全員が運転手の運送会社ですが、長期にわたる、涙ぐましい会社の職場復帰支援がありました。

また、労組との協議等も実施し、やれることはやりつくしている感があります。

本件は、症状固定や、軽作業に従事させていたということもあり、労災認定後に職場復帰ができない休業状態との単純比較はできません。

しかし、上述の事情があり、従来の業務遂行能力がなく、会社にも配転させるだけの業務がないと認められれば、解雇の有効性を高めるという一つの参考事例にはなります。

4 おわりに

ここまでお読みになられて、いかがでしたか?

業務上の傷病が発生した場合、もし解雇を検討するとしても、いかに大変になる可能性があるかご認識いただき、普段の労務管理にお役立てください。

業務上の「傷」への対策は、安全管理を会社全体・各現場で徹底していくのが重要だと思いますが、「病」の方の対策は、普段の労務管理に深くかかわってきます。

業務上の疾病、とくにメンタル不調を防止するための労務管理は今後ますます重要ですので、気にかかる従業員さんがいる場合は、お早めにご相談ください。