立川市や多摩地域で労務問題のプロ社労士をお探しなら経営側で労務問題専門の特定社会保険労務士
お客様・顧問契約の
ご検討専用ダイヤル
提案・営業電話は
固くお断りいたします
受付時間 平日9:00〜17:00
東京都立川市若葉町3-71-2
労働時間に関する厚生労働省新ガイドライン
本年(2017年)1月20日、厚生労働省が新たに「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を策定しました。
皆様にお知らせしたい点や私が気になった点などを抜粋してご紹介し、コメントさせて頂きます。
【趣旨】
現状をみると、労働時間の把握に係る自己申告制(労働者が自己の労働時間を自主的に申告することにより労働時間を把握するもの。以下同じ。)の不適正な運用等に伴い、同法に違反する過重な長時間労働や割増賃金の未払いといった問題が生じているなど、使用者が労働時間を適切に管理していない状況もみられるところである。
このため、本ガイドラインでは、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置を具体的に明らかにする。
【冨島のコメント】
大手広告代理店の事件を強く意識した内容になっています。
昨年(2016年)、労基署が是正勧告した未払い残業代も、一昨年(2015年)に比べ増加しています。
長時間労働・労働時間管理・未払い残業代に対して、労基署は引き続き力を入れています。
大きな理由の一つに、長時間労働による健康障害を行政指導により抑止していこう、ということが挙げられます。
これは今に始まったことではありませんが、働き改革の議論も含め、さらに強化しています。
近時は職場の内外を問わず、メンタル不調の方が多くなっています。
先日の新聞記事にも出ていました。
長時間労働とメンタル不調は密接に関連しており、行政がこの点をさらに注視してくるのは間違いありません。
【適用の範囲】
本ガイドラインが適用されない労働者についても、健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務があること。
【冨島コメント】
適用されない労働者とは、労基法上の管理監督者やみなし労働時間制の対象労働者のことです。
これらの人たちへも当然に、「健康確保」の観点から労働時間管理をしてくださいね、と言っています。
残業代の支払いとは別の観点で、企業の安全配慮義務に絡むお話しです。
長時間労働で万一のことがあった場合、本ガイドラインが適用されない労働者でも、企業の安全配慮義務がなくなるわけではありません。
ちなみに、中小企業において労基法上の管理監督者は、ほとんど日本にはいないと思っていただいて構いません。
裁判所が中小企業での管理監督者性を認めるのは、かなりのレアケースです。
また、みなし労働時間制について、裁判所は大手企業の海外旅行添乗員ですら認めませんので、中小企業で導入するとかなり危険です。
【労働時間の考え方】
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。
そのため、次のような時間は、労働時間として扱わなければならないこと。
使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間
労働時間に該当するか否かは、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであること。
【冨島コメント】
これらの例は、過去の裁判等でも労働時間とされています。
運送会社さんで必ずと言ってよいほど発生する「手待時間」は、労働時間になります。
ドライバーさんの自主判断で始業より早く出発し、荷主さん指定場所へ早めに到着し車で待っている時間は、基本的には手待時間と言われます。
このようなケースで手待時間と言われないようにするには、一工夫する必要があります。
運送会社さんで早出後の手待時間でお悩みの会社さまは、ご相談ください。
また、始業前の制服などへの着替えも、会社が命令していれば、労働時間になります。
労働時間と言われないようにするには、家で制服を着用したうえで出勤するよう命じるのがベターかと思います。
営業マンが家でスーツを着用して出勤するのと同じイメージです。
3分や5分のことですが、賃金などでもめているケースや経営者・会社幹部との人間関係がぎくしゃくした時などに、この着替えの時間が問題の一つとなってあらわれていると感じます。
【労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置】
(1)始業・終業時刻の確認及び記録
使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること。
(2)始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法
使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。
使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。
タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。
【冨島コメント】
上記(2)で記録の方法の原則として、使用者が自ら現認することとしています。
この点は以前からそうなのですが、使用者(ここでは、特に労基法上の管理監督者を意識していると思われます)が自分の目で確認してください、と言っているのです。
そのうえで、タイムカード等の記述が出てきます。
こうなっているのには、いろんな解説があるのですが、私の結論としては、日本の中小企業に存在するかどうかはなはだ疑問の労基法上の管理監督者に、労働時間を目で・毎日・部下全員管理するのは非常に難しい(ほぼ無理)なため、現認は原則ではなく補助的に行った方がよい、ということです。
部下全員の出社退社を上司が目で確認する(誰よりも早く出社し、全員帰ってから退社する)と、当然、上司自身が長時間労働になります。
この長時間労働が常態化し、深夜残業以外の割増賃金は払っておらず、過労で倒れたとします。
訴えられたら、労基法上の管理監督者ではないと認定され多額の未払い残業代を支払い、過労防止を怠ったとして損害賠償請求されるパターンになる可能性がかなり高いです。
客観的に記録された時間(始業終業とは限りません)をもとに、どの部分が実労働時間ではなかったのか(働いてない休憩時間)を、部課長クラスが部下一人一人をチェックするのが一番適切だと考えています。
面倒なのですが、過労での労災事案や未払い残業代請求など何かあった時、このような地道な日々の作業がいきてきます。
ここで注意していただきたいのは、厚生労働省が使用者の現認を言っているのだから、タイムカード等はいらないのではないかという素朴な疑問です。
現認の結果を厳格に記録できていればともかく、おそらく現実的には無理だと思います。
私は、現認だけの記録をしていて、労基署や裁判所から問題なしと言われたケースを知りません。
よって、現認だけで労働時間管理をするのは、非常にリスクが高いと思います。
【その他】
時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。
さらに、労働基準法の定める法定労働時間や時間外労働に関する労使協定(いわゆる 36 協定)により延長することができる時間数を遵守することは当然であるが、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間を管理する者や労働者等において、慣習的に行われていないかについても確認すること。
【冨島コメント】
ここも、大手広告代理店の事件や、定額残業手当を不適切に運用していた会社の各事件などを強く意識しています。
行政(厚生労働省)や司法(裁判所)は、定額残業手当を基本的には良くないものだと認識していると思います。
実際に、一部大手企業で定額残業手当の悪い運用があり、不幸にも過労死された従業員が出たケースがありました。
ともかく、行政や司法は、定額残業手当を良いものだとは思っていません。
しかしながら、真面目に定額残業手当の運用をしている会社さんもいらっしゃることも確かなのです。
現在のところ非常に少ないケースですが、真面目な会社さんを評価した判決と読み取れる裁判例も出ています。
よって、変な疑いの目で見られないような定額残業手当制度の運用実態等が大切です。
疑われてしまうと、上記のような良くない会社と同じように認識されかねず、いやな結果を招くことになるかと思います。
ちなみに、私はこの分野では、社労士業界の中でかなり先駆けて取り組んできた経験と実績があります。
また、36協定について述べていますが、これについては、大手広告代理店やその他大手企業が軒並み労基法違反で立件されているところです。
政府の働き方改革での議論でも、ここは今後さらに厳格になってくると思います。
労基法70年の歴史の中で「大改革」と位置付けられていますので、労働時間がどうしも長い会社としては、今後非常に重要な課題になってきます。
先々を見据えながら、お客様と共に課題克服に先手先手で取り組んでまいりたいと、改めて思いを強くしております。