top of page

賃金の不利益変更

1 見落としがちな典型例

入社5年、主任、顧客対応業務の手当として職務手当(残業代ではない)を支給し総支給月31万円

変更前内訳:基本給23万円、役職手当2万円、職務手当5万円、通勤手当1万円

残業代を1円も支払っていないため、賃金規程を変更し定額残業手当制度を導入

変更後内訳:基本給23万円、役職手当2万円、定額残業手当5万円、通勤手当1万円

※変更前と総支給額は変わりません

 

上記の場合、完全に不利益変更になります。

理由は、支給総額が31万円と変更がないにしても、変更前の職務手当は基準内賃金(残業代計算の基礎賃金)、変更後の定額残業手当は基準外賃金だからです。

基準内賃金は、所定労働時間の労働に対する賃金です。

基準外賃金は、時間外の労働に対する賃金です。

従って、職務手当(基準内賃金)が賃金規程の変更で無くなりますので、完全に不利益変更です。

定額残業手当がその分5万円支払われますが、これは、理論上、残業しないともらえないはずの賃金です。

また、基準内賃金が5万円分無くなりますので、残業代単価が下がります。

 

上記のような賃金規程の変更を有効にするには合意が必要で、後でトラブルが発生しても当該変更の合意を立証できるよう、合意書の取り付けは必須です。

2 給与計算で間違えて支給していた賃金の例

基本給・役職手当ともに基準内賃金で役職は主任。

基本給30万円・役職手当3万円をこれまで数年間支給。

しかし、賃金規程を詳しく見てみると、主任の役職手当は2万5千円であることが判明。

役職手当を誤って5千円多く支給していたので、次回の支給から基本給30万5千円・役職手当2万5千円とし、支払の内訳金額は変えるが総支給額は変更しない取扱いを会社で決定。

 

さて、このケースでは役職手当を5千円減額しその分基本給を増額するわけですが、労働条件(賃金)の不利益変更にあたるでしょうか?

 

答えは、残念ながら不利益変更にあたります。

 

基準内賃金の減少もありませんし、総支給額の減少もありません。

しかし、合意なく減額した場合、問題を起こす社員ならきっとこう言うでしょう。

 

「役職手当の5千円の減額(賃下げ)には合意していない(了解していない)。私の役職手当3万円は、賃金規程より有利な条件で合意していた額だ。だから、突然5千円減額するのは不当であり、撤回してください。一方、基本給5千円UPは単なる昇給ですよね。ですから、基本給30万5千円はそのままでいいです。」

 

このように言われてしまうと、会社としては苦しくなります。

3 合意しない人は?

上記ケースの場合、間違って支給していた役職手当5千円分の減額は合意がないとできません。

問題を起こす前の通常モードの社員であれば普通に合意してくれるはずですから、合意書を取り付けて対応します。

ちなみに、取り付ける合意書の内容に不備があれば、また新たなトラブルの要素が発生しますので、合意書の記載内容には十分気を付けなければなりません。

 

もし合意書にサインしない人がいたとすれば、会社に不満があり意地でも減額に応じないか、何か他のことを計画している可能性があります。

例えば、未払い残業代請求です。

「サインしない人=今後注意すべき人(問題を起こしそうな社員)」と、当然認識していただく必要があります。

 

賃金の不利益変更に該当する場合の合意書の記載内容は大変重要です。

ここで間違えますと、さらなる問題が発生する可能性が生じます。

また、上記のようなケースで合意書にサインしない人が出た場合、その先を見越して次の手を考えていかねばなりません。

賃金は労務問題で一番もめるポイントですから、ここでご紹介した事に該当する場合、労務問題専門で経営者側労務顧問を務める弊事務所までお早めにご相談ください。

後手後手になり、問題がこじれてくると、外部の労働組合などに関与される可能性も十分ありますから。

bottom of page